ホワイトデー〜ユーマ君の場合〜


「おう花子、これ。バレンタインのお返しな」



「ん、ありがとユーマく……」



ぽーいと放り投げられた小さな包み紙。
抜群のコントロールのユーマ君もすごいけれどそれを慌てず受け止めることが出来る私もなんだかんだと言ってすごいよね
…なんて、胸の内で自身を褒めながらもがさがさと彼からの贈り物を開封する。



「わぁ……もこもこ靴下だぁ!」



「お前いっつも足冷たいってうるせぇからな。…気に入ったかよ」



「うんっ!ありがとう、ユーマ君!!」



小さな包み紙から除いたのはほんのりオレンジ色のもこもこルームソックス。
そう言えば普通の人より体温が低い私は年中足先手先が寒いって嘆いていたけれど…
まさかそれを覚えていてくれてたとは思わず胸の中にぶわわと嬉しさが溢れかえってしまって
その気持ちを消化するために目の前のユーマ君にありがとうの意味を込めて思いっきりぎゅうって抱き着いた。




「ったく、くれてやった俺が言うのなんだけどよー。たかが靴下で喜びすぎじゃねぇ?」



「だってだって嬉しいんだもん!!」



「だよねー。靴下贈っちゃうなんてユーマ君超意・味・深♪」




余りにも私が大喜びするものだから少し困ったようなそれでいてまんざらでもない感じで
ユーマ君が呆れちゃうけれど、それでも嬉しいって気持ちを真っすぐに伝えたら後ろから聞き覚えありすぎるアイドルお兄ちゃんの声。




「あ?意味深ってなんだよコウ。靴下に何の意味があるっつーんだ。」



「あっれー?ユーマ君ってばまさか何も知らないでそれ花子ちゃんに贈ったのー?もうしょうがいないなぁ…はいっ!」



「うおっ!?」




後ろからひょっこり現れたコウ君がニヤニヤとしながらユーマ君ににじり寄ったけれど
そんな彼にユーマ君はおろか私も頭にハテナマークだ。
え?靴下になんか意味とかってあったっけ?
二人してコウ君の言葉にくたりと首を傾げれば、彼はちょっと得意げな表情でさっきまで読んでいたであろう雑誌をユーマ君にばしっと投げつけて
「じゃぁ気のきく俺はこのまま出て行ってお部屋に鍵をかけとくねー」って言って何処かへ行ってしまった。
んん?本当に何なんだろう…




「ユーマ君、その雑誌…」



「ってぇ……ったく、顔面にぶつけてくんじゃねぇよコウの野郎……ってなんだ?プレゼント特集?」




ちょっと痛かったのかぶつけられた顔をさすりながらもコウ君がくれた雑誌を二人で覗き込む。
そこにはプレゼントの特集がメインで載っているようでペラペラとページをめくっていけば二人してビシリと体を揺らして数秒氷の様に固まった。




「ゆ、ゆ、ゆ、」



「ち、ちげぇ…お、俺はそんな他意とか全くなくてフッツーに花子が足寒いって言ってたから買ってきたわけで…!!」



「や、う、うん!分かってる!!分かってるよ!?いくら何でもユーマ君がこんなこんな!!」




……………



き、気まずい!!!
どうしよう、まさか靴下にこんな意味があるとは知らなかった!!
二人して覗き込んだ先に見つけた「プレゼントに込められている意外な意味特集」。
じっと項目をたどって靴下の欄を見つけて私達は固まって大慌てで現在最高に気まずい雰囲気である。





靴下を送る意味…それは
どうぞ私の体を自由にしてください





い、いや!女性から!!女性から男性に贈る場合って書いてる…書いてるけれど!!それでもやっぱり気まずい!!!
なんかユーマ君が私に自分の体を自由にしてくださいって言ってるみたいで気まずい!!
確かにいつもこっちの体が自由にされちゃってるのでユーマ君を自由に出来るのは最高に興味がある…あるけれど





ばちり




「!」



「…っ!」




ちらりと靴下を贈ってくれた本人のユーマ君に視線を動かしてみる。
するとそれはこちらを少しばかり顔を赤くしていた彼の視線と交差してしまい、二人して勢いよく逸らしてしまう。
ど、どうしよう……すっごい意識しちゃってなんだかさっきから心臓の音が煩い…それに何だか体が熱い。



「…………」



「………あー」



暫く続いた沈黙を壊したのは酷く余所余所しい彼の声。
戸惑い気味にもう一度その顔を見上げればさっきより心なしか顔が赤い気がする。



「ユーマ君?」



「………花子、」



名前を呼ばれてびくりと体を跳ねさせてしまう。
どうしよう、何だかいつも以上にユーマ君の事、意識してしまう。
じっとドキドキしながら彼の言葉を待つ。
嗚呼、どうしよう…私、きっと今ユーマ君と同じ位真っ赤…絶対ゆでだこみたいになってる。





ドキドキドキドキ…




時間が経つにつれ、心音は速くなって苦しい。
どうしよう…このままだ本当に心臓が爆発してしまいそう。
けれどそんな私の心配は、次のユーマ君の一言で現実のものとなってしまう位
今まで生きてきた中で一番大きくドキリとその胸を高鳴らせることとなる。





「えーと、自由にシテミマス?俺の体、」



「……っ!……っっ!!」




ぎこちなさすぎる敬語でそんな事…
ねぇユーマ君、それってチョコのお返しにユーマ君自身を頂くっていう解釈で大丈夫ですか?




「い、い………イタダキマス」




どうやら私の体を気遣ってくれた贈り物はコウ君のお陰で酷く意味深になってしまったようで…
彼のぎこちないお誘いの言葉に私も酷くぎこちなく応えることにした。




ええと、私が上でそのあのえっと……



今夜、話の流れとはいえ
私は初めて最愛の野生児さんを好き放題できる権利を頂いてしまったようだ。



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