ぐちゃぐちゃの髪


「違うだろ!!高校生もっと馬鹿だろ!!!」




「おや、一応人間界の年齢としては18を名乗っておりますがこう見えて何百年も生きてるのですよ私は…花子もご存じでしょう?」



「知ってる!知ってるけどさぁ!!私の知ってる高校生と違いすぎるんだ!!よくもまぁそんなんで高校生名乗れるよねレイジ君!!」






ダンっ!と目の前のテーブルを強く叩いて今まで抱いていた事を叫び散らせば
その衝撃で少しばかり零れた紅茶を何事も無かったかのように拭きながら私を諭す目の前の最愛はまさしく保護者そのもの…
しかし、そんな愛しの彼が纏っている服は紛れもない高校生の制服なのだ。




「ずっと思ってたんだよ…花の男子高生名乗ってる割にはレイジ君マジ落ち着きすぎ。もっとこう…女子のスカートの中身に興味津々でもいいのよ」




「よくもまぁそのようなはしたない言葉を口にできますね花子…借りにも貴女、社会人でしょう。恥を知りなさい」




「なんで成人済の私が怒られてるんだ!!興味持てよ!!パンツとかおっぱいとか!!!痛い!!げんこつは酷いよレイジ君!!」





ぎゃんぎゃんと不満を並べ続けていればいい加減にしろと言わんばかりのげんこつが垂直に落ちてきてしまい
思わず私は涙目だ。




私の最愛はちょっぴり特殊で人外さん。
外見は若くても私より遥か長い時間を生きているのは知っている…けど…それでもだ。
折角人間界の高校生活を送っている割には全くそれを楽しんでいる様子がない。



彼がご機嫌な時と言えばこうして弟君達が留守の時、家事を全て終わらせ私とまったり過ごすティータイムか
同じく高校生らしくな同族のルキ君と趣味のチェスを嗜むときか同じく趣味の食器類の手入れをしている時くらい…
何だお前、高校生と言うよりかはセレブ妻みたいじゃないか。





「年相応のレイジ君が見たいのにー…」




「ですから私は何度も長い時間を生きていると…」




「でも人間界では18歳なんでしょ?子供だよ?子供らしいレイジ君見たい。」




「………」





テーブルに突っ伏しながらぽつりと呟いた言葉
そりゃなん百年も生きてるのは分かってる……分かってるけどさ
人間界で折角子供として時間を刻んでるんだからちょっとは馬鹿をやってもいいと私は思う…




たまにはさ、この世界の年齢通りの
子供っぽいレイジ君を見たいって……思ったんだけどなぁ





暫く流れる沈黙に聞こえないように溜息
ううん、やっぱり何だかんだ言って数百年生きてるからそう易々と高校生らしくって難しいのだろうか
あれ、そしたら逆にアヤト君とかどうなるんだとふと疑問に思った瞬間
私の手は不意に彼のその大きくしなやかな手に捕らえられてしまった。




「え、レイジ君?」




「おや、花子は私に高校生らしく……未成年らしくして欲しいのでしょう?」




突然の行動に驚き思わず顔を上げれば私の手はゆったりと彼に引っ張られていて
どうする気なんだと自身の手を行く先を見守っていれば彼はとても穏やかな表情のままぽすっと私の手を彼の頭へと乗せた。




「え、え、え」




「私は性格上アヤト達のようにはしゃいで子供らしくなんてできませんからね」




「う、うん?」




「ですから、こうするのが私の精一杯です」




私の手はいつもキッチリセットされている完璧なレイジ君の頭に乗ったまま
ふわり柔らかな髪が心地いいけれど、それより普段よりちょっぴり幼く感じる彼の笑顔に首ったけ




そのまま固まっていれば彼はちょっぴり、ほんのちょっぴり可愛らしく
あどけなく、くしゃりと可愛い笑顔を作ってこういうのだ。




「高校生らしく、とは違いますが……子供らしく大人に甘えてみるのも悪くない」




「レイジ君」




「ほら、いつも頑張ってる私を撫でてください。花子お姉さん?」




「ん、んんんん!!!!」




くたりと、首を傾げられて普段なら絶対聞く事の出来ないオネダリをされてしまって
此処で「嫌です」なんて言える女がいるのなら会ってみたい。



私の望んだような子供らしさじゃないけれど、これはこれでとんでもなく可愛いし
いつものレイジ君じゃ絶対に見れない表情だから私は彼のそんな言葉を受けて酷く忠実に頭に置かれた手をそっと動かして本当に子供をあやす様に優しく、優しく撫で続けた





「でもこれじゃ、高校生って言うより小学生や幼稚園児じゃない?レイジ君、気持ちいい?」



「仕方ないでしょう。私は花子の望むような下品な子供らしさは持ち合わせていないのですから……ええ、とても心地いいです。」





なでなで
なでなで




穏やかな時間に心地いい感覚
互いに微笑み合って過ごすこの時間は何者にも代えがたい




頭悪い子供らしさではなかったけれど…うん
こういうのがやっぱりレイジ君らしいかな…なんて





いつも整っている筈の彼の髪の毛が
私の手によってぐちゃぐちゃになるのを見つめて自身も穏やかに笑みを浮かべた。



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