野獣の日


「嗚呼!今日も今日とて私のアズサ君は天使!いや寧ろ神!!知ってた!!素敵!!」




「煩い黙れ野獣その口を縫い付けるぞ」




ある平和な夏の一日…今日も相変わらず可愛くて格好良くてとにかく素敵な天使であり最愛のアズサ君を見つめて
うっとりと本能的に小鳥の鳴くような小さな声で囁けば
相変わらず煩いアズサ君のボディガードと言う名の私の宿敵である長男のルキ君が煩いとか言っちゃうからさっきまで緩みきっていた私の表情にビキリと青筋が浮かんでしまうのももはや通常運転だ。




「ちょっとなんなのルキ君私の事野獣野獣って私は天使アズサ・ムカミの恋人なんだからいっそ女神って呼ばれてもおかしくないはずなんだけど?」




「何が女神だ図々しい。毎度毎度アズサが可愛らしいと叫び散らしてところかまわずいちゃつこうとする貴様なんて家畜さえ勿体ない野獣で十分だろ身の程を弁えろ野獣」




ゴチン、ゴチンと額をぶつけ合わせながら静かなる口喧嘩をそんな天使のガーディアンと繰り広げるのもこうして日課となっている
全く、幾らアズサ君が可愛い可愛い末っ子だからってちょっと過保護すぎない?
アズサ君だって子供じゃないんだからそろそろ私にくれたっていいと思うの




「嗚呼、そう言えば今日は8月10日だ……数字で言葉遊びして野獣の日とでもいえるか…はっ、貴様にぴったりだな」




「はぁ!?ちょっと失礼すぎるでしょ!!幾ら私がちょーっと大胆だからって可憐な女子に対してそんな野獣の日にピッタリ……なんて、」





バチバチと視線で火花を交えつつも棘しかない言葉で交戦していれば不意に紡がれたルキ君のその台詞にとうとう私の堪忍袋の緒はぶつんと切れてしまって
相手の胸ぐらを掴んでそのまま頭突きでもしてやろうとか思った矢先脳裏に過った自身の素晴らしすぎる作戦に思わずニヤリと口角を三日月形に上げてしまう。




「な、なんだ野獣……その本当にケダモノのような目は……」




「ええ、ええ…私は野獣……そうですともルキ君の言う通りだね。」






相手の胸ぐらを掴んでいた手を静かに離して自分でも凄く悪い顔をしていると自覚はある程の表情を浮かべルキ君から離れれば
彼はそんな私の顔にブルリとひとつ身震いをしながらこの言葉の真意を問うてくる…
本当に、本当に失礼な無神家の長男だと思うが今の私としてはそんなのどうでもいい





一歩、また一歩と彼から離れ
その変わり、また一歩と代わりに私の身体は天使へと近付いていく…





すると漸く彼は私が何を考えているのか察したように
その顔を真っ青にするが時は既に遅し、
無意識のうちにこの私に言い口実を与えたルキ君が悪いんだ





「そう!私は野獣!!そして今日は野獣の日!!という事はこの野獣は何をしても許さると言う事アズサくううううん!今晩暇!?」




「くそ!はやりそう言う事か!!野獣止まれ!!!」




「ん………?嗚呼、花子……さん、どうしたの…?」





ルキ君と距離を取ると同時ににじにじとアズサ君に近付いていた私は
大きく彼の言葉のあげあしを取る様な台詞を吐きながら勢いよく最愛ダーリンアズサ君の背中に抱き着くと
ゆっくり振り返って嬉しそうに微笑みながら私の名前を呼んでくれる彼はやっぱり天使だ。





うん、今宵貴方の野獣は夜通し愛しちゃいたいって今心の中で決めました。





「アズサ君アズサ君、私いつもルキ君に野獣って呼ばれてるでしょ?」



「うん……花子さん、いつも……野獣って呼ばれてるね……ルキは他の子は家畜って…いうのに……ふふっ、きっと花子さんは…特別に素敵だから……野獣、なんだね」




「やだもう天使過ぎて後光が見える眩しい今すぐベッド行きたいアズサ君マジ天使」




只単に嫌味と皮肉めいてつけられたこの呼び名もアズサ君の言葉にかかれば
とんでもなく素敵なニックネームに聞こえちゃうからきっとアズサ君は天使と同時に魔法使いに違いない素敵




そんな彼とルキ君の言葉を名目にして今宵も愛し合っちゃおうと
もう一度ニヤリと笑みを浮かべてアズサ君へ最終的な質問をひとつ
ふふふ、これでアズサ君が野獣の日って言ってくれれば私はそのまま……考えただけで興奮が止まらない




「それでね、それでね…アズサ君、今日は8月10日でしょう?数字を言葉遊びしたら何の日でしょうか?」




「?8月……10日……ん、んん…………ああ、分かった………」




きらきらとした瞳でアズサ君に問いかければ数秒うーんって考え込んだけど
すぐその答えが出たらしくて、ふにゃりと可愛らしい笑顔を向けてくれたのでこれはもう「野獣の日」って察してくれたんだと
彼の口から出る答えに期待と興奮と発情が止まらない




さぁ!アズサ君!!言って!!その口で野獣の日と!!!





すると彼は何故か両手で小さな可愛らしいある形を作って
一言……流石天使だと言う言葉を口にした。





「8日10日……はーと………今日、ハートの日……でしょう?」




「え」





彼が両手で作ったのは小さく可愛いハート
そして口にした言葉は私とルキ君みたいに野蛮な言葉じゃなくてゆるふわメルヘンチックな言葉で…
あ、私とルキ君って実は凄く穢れてるんじゃ…って一瞬思ったけど違うそうじゃない





私の最愛がずば抜けて天使、
ただそれだけど。





「はい、花子さん………俺の、ハート……あげるね?」




アズサ君の予想以上の天使っぷりに見事に固まっていれば
そんな天使が両手で作ったハートがぷにっと私の頬を押したのでもはや野獣花子ちゃんはここまでだ





「アズサ君可愛い!!!!!」





その後の記憶は私にはないけれど…
目が覚めたら心配そうに見つめてくれているアズサ君と
どうしてか床が大量の血で溢れ返っていたからきっと私の可愛い鼻から彼らの大好物である血が噴射したんだと
それだけは確信が持てた。





無神アズサ
私の最愛にして最高に天使





どうやらそんな天使には野獣のヨコシマな考えは全く通用しないようだ。



戻る


ALICE+