第六回王様ゲェェム!!!
「最近何やら楽しい事をしてるなって思ってシュウに聞いてみたら狡いじゃないかルキ。王様も王様ゲーム参加したいよ」
「……………。」
何の変哲もないある日
俺達の神にも等しいあのお方が本当に前触れもなくやってきてそんな一言
片手には勿論忌々しいあの王様ゲームの為のくじ。
くそう、カールハインツ様に王様ゲームを教えた逆巻シュウをこの世から消し去りたくて仕方がない。
しかし今はそんな事より死ぬ程したくない…もう二度と絶対ごめんだと思っていたあの王様ゲームを
名実共に王であり、神である彼自ら足を運んでいただいたこの状況をどうにかする事から考え……
「あれ?すごい珍しいお客さんだ!!カールハインツ様、お久しぶりですっ!!ってもしかして王様が王様ゲーム?」
「おや花子、久しいね…そう、王様、皆が王様ゲームしてるから混ぜて欲しくなったんだ」
……今日もやはりタイミング悪く俺の後ろからひょっこり現れた愛しくて仕方のない花子が
ノリ気な口調でカールハインツ様と言葉を交わしもう俺に逃げ道はない…
嗚呼、せめて……せめて今度こそ無事何事もなく、俺の心に傷が残らないような王様ゲームをしたい
俺はその時、カールハインツ様の背後に居た黄色の敵に気付く事なく
そんな呑気な事を考えひとつ、誰にも気づかれないように溜息を零したのだ。
「…………人数合わせとはいえどうしてお前なんだ逆巻シュウ」
「教えたのが俺だからって言う大した理由じゃない……寝てたのに、まぁ…こうしてまた花子と会えたのは嬉しいけどな」
その後、すぐにカールハインツ様をエデンに比べたら到底豚小屋並の狭さで在ろうリビングにお通しすれば
ひょっこりと彼の後ろから現れたこの王様ゲームにおける天敵の姿を捉えてもはやため息が止まらない…
まぁ確かに今屋敷に居るのは俺と花子とコウだけだから大した人数ではない為盛り上がりに欠ける……が、
「おや、この人選は不服かな?ルキ」
「………………………とても素晴らしすぎる人選でため息が止まりません。」
どうにか人選の交代を願い出ようとしたものの、もうすぐにでも始めたそうなカールハインツ様と目が合って引きつり笑い。
嗚呼、頼む……どうか俺に心と体の平和を確保してくれ。
「さーってと!じゃぁじゃぁ本物の王様入れて第六回始めちゃおう!!王様だーれだっ!」
楽しそうな花子の掛け声と共に最初に引かれたくじ…各々にそれを見つめるも
俺は思わず舌打ちをしそうになってしまう……くそう、王様じゃない…3番だ
どうか…誰だかわからんが王様。
3番以外で頼む。もしくは無難な命令で……でなければ俺は本気の調教も辞さない覚悟だ…!
今までの経験が非常に俺自身をピリピリさせ、そんな俺を隣のコウがオロオロと眺めているが
正直今は弟に気遣う余裕なんてない……どうか俺が助かりますように…!
「あ!私が王様だー!!!」
「おや、花子が王様か……ふふ、きっと楽しい命令をしてくれるんだろうね」
数秒後、きゃっきゃと嬉しそうに王様を名乗り出たのは愛しの天使花子。
でかした!花子ならそんな無茶な命令なんてしてこない…!
何と言っても彼女は逆巻のような鬼じゃないんだ!!
俺もコウも安心したように表情を緩めうんうんと命令を考える花子を微笑ましく見守る
そんなに急がなくてもいいんだぞ花子……王様ゲームを始めてここまで安心できる王様は初めてだ。
一生懸命考える彼女を見守って数秒…パァとその表情が明るくなったから
俺達はじっとその可愛らしい王様からの命令を待つ
するとその口から出た言葉はなんとも可愛らしいもので
「ええと、1番が2番を後ろからぎゅーってして甘い言葉を言う!!」
「あ!俺1番だー!!!2番だれだれ!?」
俺の隣のコウがガタリと席を立ち、ハイハイと手を挙げ2番を探す
まぁ甘い言葉は別として後ろからハグなんてこの中だとどうせ逆巻シュウくら………
「嗚呼、2番は私だね。コウ………優しく抱き締めてくれ」
「「えっ」」
「わぁ!カールハインツ様でしたか!!ふふっ、コウ君…頑張って?」
「…………………ふはっ」
そんな平和ボケしたことを考えていればゆるりと手を挙げたのは我らが神。
その表情は初めて王様ゲームと言うものに参加でき、こうして命令された事に喜びを感じて居るのだか……
コウが後ろから抱き締める相手がカールハインツ様だと分かって
何だか楽しそうな花子と俺達を生かしてくれた神を後ろから抱き締めると言う最高に無礼を働かなければいけない事に
汗が止まらないコウとそんな彼を見守る俺……そしてそんな俺達を静かに見つめひとつ笑いを漏らした逆巻シュウに一抹の殺意
しかし忘れてはいけない……
ここでは王様の命令は絶対なのだ
「し、し、し、しつれい…しま、しま、します……っ!カ、カ、カ…っ」
「おやおやそこまで緊張しなくとも…これは王様の命令だしね……私だって首をはねたりしないさ」
カールハインツ様の後ろに立ちガタガタと震えと汗が止まらないコウにもはや同情しか感じない
彼が嫌いと言う訳ではない…寧ろ恩を感じているし、敬愛している…しすぎているからこそそんな方を後ろから抱き締めて甘い言葉なんて万死に値する
緊張の最高潮なコウと
そんな彼を穏やかに笑うカールハインツ様…
コウ、男なら覚悟を決めろ…!!
「カールハインツ様、しつれいしますっ!!!」
意を決したコウが後ろからカールハインツ様を抱き締め……いや、何だかこちら側から見ていると抱き着いているように見えてしまうのは
やはり神とそれを敬愛している者と言う気持ちの差なのか…こちら側からもカールハインツ様を抱き締めているコウの手が震えているのがわかる
分かる…その気持ちわかるぞコウ…!!!俺だって神を何処かの家畜みたいに後ろから抱き締めるとか死んでも畏れ多い…!
しかし後は甘い言葉だけだ…!頑張れコウ!!!兄はお前を信じている!!!
傍から言葉に出しはしないが必死に応援していれば
震え切ったコウの唇がゆるりと開き……彼なりの最高に甘くて蕩ける言葉をひとつ
「か………神猫ちゃん……俺と、イイコト………しよ?」
「おや、それはコウが私をリードしてくれるという事かな?ふふっ、なかなかにドキドキするねこれは」
…………………
その後、コウが自室から暫く出てこなかった事はまた別の話だ。
「コ、コウ君大丈夫なのかな…私、面白くて素敵だと思ったけど……ま、まぁ気を取り直して…王様だーれだっ!!」
コウが子供の様に「ごめんなさい」と泣きわめきながら自室へ逃げた後
再開された王様ゲーム……少し動揺していた花子の手から引いたくじはまたしても王様ではなくて今度は1番
どうか……せめてまた王様は人畜無害な花子がいい…
そう、願った矢先…
ニヤリと酷く恐ろしい笑みを浮かべた悪魔が静かに手を挙げた
「王様おーれだ」
「シュウさん!」
「チェンジだ!!!」
王様のくじを引いたのは今まで散々俺を陥れ精神的に追い詰めてきた吸血鬼と言うかもはやディアブロ逆巻シュウ
思わず勢いよく席を立ち大きな声で抗議するもそれは目を細めた逆巻シュウに一蹴りされてしまう
「なぁに?わざわざあんたの神である親父が此処まで来たって言うのにルキは自己本位な理由でゲームを台無しにする訳?」
「く……くぅ!」
正に正論……正論過ぎる
そのにやけた嫌味ったらしい顔が心底気に喰わないが今回は逆巻シュウの言う通りと
ぐっと唇を噛み締めて席に座り直した…
せめて………せめて俺に被害がなければもうそれでいい
カールハインツ様は万能な方だから何があっても平気だろう
花子は万が一何か酷い命令でもされたら後で俺が慰めてやる…だが…だが!
俺は万能でも無ければ優しく慰めてくれる相手もいないんだ
今回ばかりは自身を最優先にさせろさせてくれ…!
ブツブツと呪いの様に静かに呟いていれば放たれた逆巻シュウの言葉
「3番が王様に床に額擦りつけて“この哀れな豚めを踏んでください”って言いながら土下座」
や
やった……
やったぞ…!
遂にこの忌々しい王様ゲームにて俺が全くの無被害で終わった…!
最高だ!!!王様ゲーム楽しい…!
そう顔には出さないものの頭の中で少しばかりはしゃいでいれば震えた手が上がった先を見て俺は一気に顔面蒼白
「……………………3番、私だ」
「チェンジだ!!!」
震えながら挙がった手は紛れもなく俺達の敬愛する神で…
俺はその瞬間何かを考える前に身体が勝手に動いて床に額を擦りつけていた
そう
俺は無神ルキ
神に等しいカールハインツ様の為ならこの身を喜んで捧げる
自分の意志等関係ない
俺は……俺はどんな汚れた仕事だってこなす
彼の御心の安定の為ならば裏切りだって辞さない……
例えその裏切りの対象が
今回は無被害だと喜んでいた自分自身だとしてもだ
「この哀れな豚めを踏むがいい……逆巻シュウ…っ!」
後日、暫くの間
学校で逆巻シュウとすれ違う度に「よう豚野郎」と呼ばれ続けたのは…
実はあのくじを引く時動揺した花子の手からくじの中身が全て見えていて
俺がカールハインツ様を庇って行動することも全て見透かしてああいった命令を彼がしていたという事も全て別の話…
そろそろ
俺も逆巻シュウを地獄を見た方が多少マシだと言う目にあわせてやりたい。
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