お世話係の宿命


「うええええん、シュウ君暑いよぉぉだっこおおおおお」



「やーだ」




「即答!!!」





じりじり暑いこの季節…
何だよ夏にはまだ早いだろって思うけれど気候は私のそんな文句を一切受け入れてはくれずに
太陽をとっても強くしちゃうし蒸し暑いし部屋の冷房を入れても暑くて死んでしまいそう…




「なんで即答しちゃうの…愛しの花子ちゃんが暑いって言ってるんだよシュウ君がぎゅーってしてよ吸血鬼でしょ?」




「花子は短い時間しか生きることが出来ない人間だけどその分刹那に生きる生命力はとても強いって俺は信じてるから死なない」




「うわん!すごい変な信頼寄せられてる!!!要らない!!!人間すぐ死ぬしめっちゃ弱くていいから抱っこしてよ!!!」




自分はガンガンに冷房の効いた部屋で更に急遽暑すぎるからって買ってきた扇風機を占領してしかも体温も無いから余裕で私より涼しいはずなのに
その冷え切った体で私を冷やそうとしてくれない最愛に文句のオンパレード。
ていうかその扇風機だって私が買ってきたんだからね。




「ねぇねぇシュウ君だっこしてよだっこー。花子ちゃん暑くてしんどいよ…」




「………………花子は」




「ん?」




そんなこの世の涼しさを全て独り占めしちゃっているような彼の背中に自ら抱き着けば
首だけ回してじとりとコチラを見つめるシュウ君に首を傾げる。
なんだろう……シュウ君、なんて言いたいのかなぁ




私はそろそろこんなしつこすぎる彼女の主張をきいてくれるのだろうかと
そわそわしながらシュウ君の言葉の続きを待てばそれは私の期待していた言葉と全然違うもので…




「花子は花子の愛してやまない俺が花子を抱き締めてその暑くてしんどくて死ぬ思いしてもいいの?」




「……………。」





数秒……
ほんの数秒、
その部屋には扇風機の音と、冷房の音だけが流れ
私はそっと彼に抱き着いている手を静かに……本当に静かに手放した。








「う、うわああああ!!!ひ、酷いよシュウ君ー!!!わ、私がシュウ君を大好きな心理を利用するなんてどんだけ鬼畜なんだ!!!暑い!!!」



「俺は自分が快適に眠る為なら手段は選ばない………例え相手が最愛でもだ。」




「うわん!酷い!!でも最愛って言ってくれた!!!嬉しい!!!アイス食べる!?」




あの一言以来私は最愛逆巻シュウに近付けない……
だって私はシュウ君が大好きだからそんなシュウ君に暑さでしんどい思いはしてほしくないんだもの!!
それは自分が暑いのを余裕で我慢できちゃえるくらいに!!!




現在シュウ君は扇風機占領、冷房MAX
私に突っ込まれたアイスを頬張りご満悦。
この現状が快適なのかうつらうつらと眠そうな表情がとても可愛い……
く、くそう……可愛いけど私は暑い





「うぅ……シュウ君大好き。涼しい?」




「ん……涼しい。花子が団扇で扇いでくれたらもっと涼しくなるしもっと花子を好きになるかもな」




「うわああん!!!ど、どこまでも利用されてしまう自分が憎い!!!風加減どうですか!?」





ぐずぐずと唯一冷房が少し当たる場所で快適空間の彼を見つめれば
とても穏やかに微笑んでそんな事言っちゃう彼にそろそろ怒ればいいのに私は手近にあった団扇を手にパタパタと彼に向けて懸命に風を送る。
うう、チョロイ……私がチョロすぎて今後が心配だ!!
でも……でも、




「シュウ君、私の事もっと好きになった?」



「ん、俺の為に我慢して尽してくれる花子……大好き。愛してる」




快適空間で汗ひとつかいていない私の彼と
そんな彼の為に我慢して尽して汗まみれの私…
こんな状況で彼より酷く喜んでしまっているのが私なのは全てシュウ君の言葉が悪い訳で……




「んんっ!!!もっと!!!もっと好きって言ってシュウ君!!!めっちゃ扇ぐよ!!!!」



「花子ってほんとチョロイよな……ククッ」



「何とでも言えばいいさ!!!だって私はシュウ君が大好きなんだもん!!!」





彼からの甘い言葉が聞きたくて、もっと沢山腕を振って彼へ風を送れば
小さく笑われて酷い言葉を言われてしまったけれど
それは紛れもない事実だから仕方がない。






『日が沈みきったらちゃんと礼はくれてやるよ』





今は小さく呟いた彼のそんな言葉さえも届かない程
彼に尽くすのに私は夢中なのだから。





(「え!?シュウ君何か言った!?」)



(「別に?只明日は花子は動けないんだろうなって…」)



(「そこまで扇がせる気なの!?」)




(「…………(いや、俺の礼でって事なんだけどな)」)



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