目には目を、歯には歯を、愛には愛を


「それで、今後の政務についてだが…」



「に、兄さん……いいのそれ?」




「はぁぁぁんカルラさん、いやもうカルラにゃん……百週回ってカルラ様素敵…」




「どうしたシン、私の執務をい手伝いたいと言ったのは貴様だろう」




吸血鬼と始祖が和解してから兄さんは執務に追われて大忙し…
少しでも俺だって役に立ちたいって思って少しでも出来る事は任せてほしいと申し出たのは良いんだけど…




今、その吸血鬼と始祖の間の政務で追われている偉大なる始祖王の頭に
下等すぎる人間がとても幸せそうに頬ずりしてるから正直さっきから兄さんの言葉が全く頭に入ってこない。




「ちょっと花子!俺と兄さんは今大事な話をしてるんだ!!兄さんから離れなよ!!!って始祖王の髪の香りを嗅ぐな!!」



「煩いよシン君!!本人のカルラさんが怒ってないんだから別にいいの!ねーカルラさんっ!嗚呼、髪の毛サラサラ気持ちいい」



「それでこの日私は他の執務で多忙だからシンが代わりに…」



「ちょっと兄さん!兄さんもよく花子に好き放題させたまま真顔でスルー出来るよね!!!始祖王ってやっぱそこまで器広くないと出来ないの!?」




どこをどうしてそうなったかは全く分からないけれど
兄さんの最愛の座を得てしまった今彼の頭に顔を埋めて好き放題やりたい放題の花子にもう我慢の限界とばかりに喚き散らすけれど、
彼女の言う通りさっきから兄さんは花子に好き放題させてばかりで
さっきから頭に顔埋められようが、髪の毛の香りを嗅がれようが、ぎゅうぎゅうと抱き締められようが
それら全てをスルーして俺に任せてくれるであろう執務内容を教えてくれてるけども…




そんな好き放題されてる始祖王とやりたい放題の馬鹿花子を目の当たりに
内容入ってきますって奴なんか居るわけない!!





「兄さんも兄さんだよ!!どうしてされるがままな訳!?怒りなよ!!もう兄さんの髪の毛撫でられすぎて鳥の巣だよ!?」



「いいんだよ!これが私の愛の形何だから!!!あああカルラさん、今日も格好良くて可愛くて素敵すぎてもはや完璧…っ」




「……………目には目を」





ぎゃんぎゃんと俺と花子が言い争いを始めようとしたとき、
ぽつりと兄さんの口から呟かれた人間の昔あったような法律…
小さく呟かれたそれに俺も花子もピタリと交わす言葉をやめ、じっと兄さんの顔を見つめた






だって兄さん……今、すっごい悪い顔してる。






「シン……私がいつやられっぱなしだと言った?今私を好き放題している花子にはこの後存分に同等の報いを受けてもらう。」




「に、兄さん?」




「目には目を…歯には歯を………愛には愛を。花子……今宵は覚えておくんだな」








嗚呼、




花子の……




花子の震えが止まらない。




さっきまで上機嫌で兄さんを好き放題していた花子は
今はもう顔面真っ青で動きも氷像の様に固まって、ただひたすらにガタガタと小刻みにその体を震えさせるばかりである。
…さっきまで兄さんを好き放題していた花子に怒りを覚えていたけれど
今となってはそんな彼女に「逃げろ!今すぐだ!!」と言ってやりたくて仕方がない。




すると止まっていた彼女の手に兄さんの手がそっと重なり
とても低く、甘い声が部屋に響き渡ってしまった。




「花子…どうした?私を好き放題してもいいのだぞ?………今更やめた所でもう遅いと言うものだしな?」



「…………っ」



「え、……えっと、兄さん…流石にちょっと花子が可哀想って言うか」



「シン、今宵は何処かへ出かける事を勧めるが?まぁ……始祖王の女の喘ぎ声を盗み聞きしたいのであれば特別自室で眠る事も許してやらなくもない」



「あ、ハイ。出かけます。」




もはやあの図々しい下等種は今は怯えきった子羊の様で
流石の俺も助け船を出してやろうとしたけれど、そんなの唯我独尊を突っ走っている兄さんに効くはずもなく
俺は今夜外出を強いられてしまうハメとなってしまってもはや手伝わさせてもらえる執務の説明どころではない。




うん、出かけた時に花子の腰に貼る湿布位はせめて買ってきてあげよう




「では、話を戻すぞシン」



「う…………うん、兄さん」



「…………っ」



「ククッ、花子……私で遊ぶ手が疎かになっているぞ?」




そんな決意をした瞬間に本当に何もなかったかのように
話を戻されてしまうけれど、今度はさっきとは別の意味で内容が頭に入ってこない。
花子の自業自得と言えばそれまでになるけれど、それにしてはその対価が大きすぎると思うのは俺だけではないと思う。




花子がこっちを「助けて神様」って目で見つめるけれど
残念、俺は神様じゃなくて始祖です。
そんな彼女に対してはちょっぴり申し訳ない言い訳を頭の中で繰り広げながら
夜が更けるまで、全く頭に入ってこない執務の説明は続けられてしまった。





嗚呼、うん…
そりゃ兄さんがされっぱなしではないのは分かっていたけれど……





流石にこの俺でも下等な人間に同情してしまうなぁ
なんて……




妙に上機嫌な兄さんと
ガタガタと震えと汗が止まらない花子を見て、そう思ってしまった。





(「えっと、花子……昨日、どうだった訳?」)




(「……………この全身のキスマークと起き上がれない身体を見て察してほしい」)




(「あっ、うん」)



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