お茶目番長


「お、およ…お呼び、ですか…っ、カールハインツ様…っ」


「ああ、よく来たねルキ…イブの近況を聴こうと思ってね」



ルキに向かってふわりと微笑めばものすごい勢いで顔を逸らしてブルブルと体を揺らしてしまっている。
まぁ仕方のないことと言えばそれまでだろうか。


今私の銀色の髪は花子の手によって可愛くアレンジ中である。



「計画はうまく進行しているかい?」


「は、は…い、滞りな、く…っ、…っ!」



嗚呼、可哀想なルキ。もはや涙目ではないか。
ヴァンパイアの王ともあろうものが花子のような一般人に髪を良いように弄ばれているのだおかしくて仕方ないだろう。



…加え今の私は最高にキュートだと思う。



「やだもうカール超かわいい!次の髪型にしていいかな?」


「ふふ、お好きにどうぞ…っと、痛たた…あまり引っ張らないでおくれ、」



自身の作品に満足したのか、花子は嬉しそうな声をあげて後ろからぎゅうぎゅうと抱き付いてきてしまう。
勢いがあったから体が酷く揺れてしまったけれど、それでも私はされるがままに苦笑する。


機嫌を良くした彼女はそのままの勢いで別のヘアアレンジに挑戦しようとぐいと髪を強く引っ張ってしまった。



…流石の私でもそれは痛い。



「次はあざとくツインテールとかどうかしら?」


「ああいいね、きっと可愛らしくなるね。」


「〜っ、花子!カールハインツ様っ!」



私達の会話に我慢の限界と言わんばかりに割って入ってきてしまうルキに対して
私と花子は同時にくたりと首を傾げる。



「戯れも程々にして頂かないと…っ、」


「いいじゃないか。私はお茶目なんだ。」


「そうそう、カールはお茶目さんなんだよねー。」



たまにはこう言った息抜きだって永遠の生を持つ者には必要で、いつも肩の力を入れてばかりでは疲れてしまう。


ああ、そうだ…折角だからこの姿でレイジ辺りに会いに行ってみても面白いかもしれない。
そんな事を考えて小さく笑えば私の考えなどお見通しと言ったように花子もニヤリと悪い顔。
ああ、だからお前の事を手放す気にはなれない。


私と同等、それ以上につるんでくれる悪友なんてもはや君位だもの。


「じゃぁさ、編み込みにして、くまさんのゴムで可愛くしてアゲル!」


「おや、随分と大胆だね…可愛くしておくれよ?花子、」



私達のやり取りにルキの盛大な溜息がこの場に響き渡る。


人の心を弄ぶのも、パーティも、享楽も嫌いではない。
けれど今はそれよりも花子と共にこうして盛大な悪ふざけをしているときが一番肩が軽くなる。


この身分と地位だから背負うものは酷く多い。
けれどそれを煩わしいと思ったことはない。


ただ、こうして息抜きをしたって許されるのではないのだろうかなんて
少しばかり自身に優し過ぎるだろうか…?


余計な考えを巡らせればコツンと小さな音と、軽い額への痛み。
チラリと上見上げれば視界を満たす花子。
彼女は少しばかり困った顔をして笑っていた。



「私と一緒の時はいつだってカールはお茶目さんなのよ?」



暗に力を抜いていい場所は紛れもない彼女との空間なのだと念を押されてしまったようで
少しばかり情けなく感じつつもどうしてかそれが酷く嬉しくも思ってしまう。
嗚呼、無敵の生き物は弱い生き物に意外にもこうして救われてしまっている。



そんな事実も悪くないと、再び小さく笑って感謝の意を込めて年甲斐もなく小さな音を立てて可愛らしいキスを彼女に送れば
見ていたルキの顔はみるみる真っ赤に変わり、肝心の花子はニヤニヤと嬉しそうに笑って今度は全体重を乗せて抱き付くと言うよりかはのしかかってきてしまった。
ああ、おかげで書類などは全てぐしゃぐしゃだ。



けれどこんなお茶目な日常…
私はどうしてか嫌いではない。




(「今度はアフロウィッグとか被ってみる?YO-YO-チェケラ☆」)


(「熱いソウルを唄に込めるというやつだね?」)


(「…アナタ方は俺を腹筋崩壊でどうしても殺したいのですか?」)



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