花占い


「スキ、キライ、スキ………き、きらい…っ」


ぷちぷちと可愛らしい音を立てながら綺麗な花びらを千切っていく。
そしてまたしても無残な結末にじわりと涙を浮かべてしまう。


「おやおや、花子は庭園の花全てを千切ってしまうのかい?」


「うぅ…カールハインツ、」



私の手によって千切られた沢山の花びらの中でぐすりと鼻をすすれば
愛しい人は呆れたように笑って私の頭を撫でてくれる。
彼のこういう優しいところがだいすき。


別にカールを独り占めしたいとか、4人目の奥様になりたいとかそんな事は考えていない。
ただ、せめてこういう乙女チックな占いだけでも彼と相思相愛だっていう幻想を抱いていたいのだ。


でも現実は酷く残酷で、先程からちぎっては投げちぎっては投げしてしまっている花達は私に
【彼はキミを愛してないよ】って囁いてくる。


…知ってるもの、そんな事。


だから君達に夢を見せてもらおうと思っていたのにどうして現実しか見せてくれないのかなぁ。


しょんぼり落ち込んでいれば小さく笑ったカールが私の目の前に一輪の花を差し出してきた。
突然どうしたのか分からず首を傾げていれば彼は優しく微笑んだ。


「私の気持ちだよ。花占い、してごらん」


「う、うん…」



彼の言葉に戸惑いがちにそれを受け取って
素直に一枚一枚千切っていく。


スキ、キライ、スキ…キライ、スキ…



そして最後の一枚になりピタリと手を止めてしまい、遂にはボロボロと溜めていた涙をあふれさせてしまう。
ひ、酷い…こんな方法で諦めさせなくたっていいじゃない。

最後の一枚を千切らずに固まっていればまたカールは笑う。
そして有無を言わせない笑顔。
ああ、私…貴方のそんな顔も大好きなのに。



「ホラ、花子…続きをどうぞ?」



やさしい、どこまでも優しい笑顔と声でそんな命令しないで。

胸の奥で覚悟を決めて残っていた花びらを死刑宣告と共に千切ってしまう。


「………キライ、」


ああ、カールってば私にこんな気持ちを伝えたかったの?
なんて酷い人なんだろう…
零れる涙は止まらなくて千切った花びらを未だに持ったまま震えていればふわりとそれが宙に浮く。


不思議なその現象に驚き思わず涙を止めて視線で追えばチラリと見える人差し指を遊ばせておどけたような顔で微笑むカールの顔。


そしてその一枚は何事もなかったように再び元の場所へと帰っていった。
すべて千切ってしまったはずの花に再び舞い降りた一枚の花びら。


カールは静かに膝をついて私と目線を合わせてその最後の花びらを取ったかと思えばそのまま
ふわりと悪戯が成功したような無邪気な微笑みを私にくれた。



「ホラ…だいすき」


「か、か、かーるぅぅぅ…」



彼の思わぬサプライズ的な告白に今まで止まっていた涙はもう止まる事を放棄してしまった。
大きな声をあげて泣き喚きながら彼にぎゅうぎゅうと抱き付けば
困ったように笑うけれど突き放すことはしないで寧ろそのまま優しく抱き締めてくれる。


「嗚呼もう…こんなに花を無駄にして…私の気持ちが知りたいのなら私自身に聞きなさい」


「だって…だってぇ…」



まさかカールが私の事好きでいてくれたなんて思ってなかったんだもの。
どうしよう、今が幸せすぎて怖い。


未だに泣き止む事のない私の瞳に彼が静かに唇を落とせば不思議だけれどあっという間に涙は止まる。
そして代わりに私は最高に幸せな笑顔を作ることが出来る。
ああ、カールってばこんな魔法も使えるのね。



「えへへ、カールハインツ…だいすき」


「どうやら花子は私のサプライズをお気に召したようだね」



ご機嫌に笑えばそんな私の頭をまた撫でて
今度はそのまま唇にキス。
嬉しくてたまらなくて恐れ多くもヴァンパイアの王様を沢山の花びらの上に押し倒してやった。


それでも優しく微笑んだままのカールはとても綺麗で
私は彼に与えられた幸せの感情のまま彼の身体にぎゅっと抱き付いた。



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