レンアイごっこ


「花子ちゃんを好き?そんなの信じてたの?んふっ♪相変わらずお馬鹿だなぁ君は」



「ライト君かわいい」



「…ちょっと、僕の話聞いてた?」



彼の薄っぺらな言葉が部屋に響き渡って私は思わずくすりと笑ってしまった。
だって仕方ない、ライト君は肝心な嘘がとってもヘタクソなんだもの。
必死にいつも通りん笑顔だけれど瞳、揺れちゃってるよ。


そんな彼をぎゅうぎゅうと抱き締めればビクリと揺れる体。
どうして彼が突然そんな事を言いだしたのかなんて見当が付きすぎて笑える。



「深く踏み込まれるのが怖くなっちゃったかな?」


「何自惚れたこと言ってんの?…調子に乗るな、」



私の言葉にいつもの飄々とした口調ではなく
少しばかり低くて冷たい声でそんな言葉。
嗚呼、怒ってしまった。
けれど私は彼の怒った所も大好きだ。



だってライト君が怒るのはいつも本当の事を言われた時だもの。




だから彼が怒ると言う事は私がライト君の心に触れた証拠。
触るな、近付くな。
繊細な彼の心はひたすらに喚くけれど私はそれさえも全部全部包み込む覚悟だ。
そんなの、ライト君を愛してしまった時点で決まってる。


彼の力を持てば私を引きはがすことくらい造作もないことなのにそうしないのは心のどこかで離さないでって思ってるからだよね。


欲望には酷く素直なのにこうした自分の気持ちには全然素直じゃないライト君。
そんなところもとっても好き…好きだけれど、



「平気。別に今更ライト君の事嫌いにはなれないから…だいすきよライト君」


「だから…っ!僕は花子ちゃんが、キライ、で…!」



震えた声で涙を流しながらそんな事を言われても私には全然効かない。
只々おかしくて笑ってしまう。
大丈夫よ。人間って吸血鬼より体は脆いかもしれないけれど
心は意外に図太くできているものだから。



それにもし壊れてしまったとしてもライト君が壊すのなら私は大歓迎だ。


「…離してよ」


「じゃぁライト君が引きはがして?」



「……………花子ちゃんのいじわる」



遂に観念したのか、ライト君はそのまま大きな溜息をついてその綺麗な腕で私を抱き締めてくれた。
肩に顔を埋めて暫くすればそこはライト君の涙で濡れる。



こわいよね、本心に触れられるのは酷く恐ろしい。
だったらその前にサヨナラしちゃおうだなんて何とも彼らしいけれど
それじゃいつまで経っても君は救われない。



「ねぇ、どんな僕でも好き?愛してる?」


「うん、ライト君大好き…愛してる。」



私のはっきりした答えにいつもの慣れたような卑猥なキスじゃなくて
初々しい震えながらのキスに思わず笑ってしまった。
ゆっくり唇を離されればとても不安げな愛おしいライト君の顔。



「ぜったい、ぜったい…嫌わないでね、花子ちゃん」



「約束する、絶対嫌わないよ」



だから格好いい貴方も可愛い貴方も格好悪い貴方も酷い貴方も
全部全部私に見せて?
そしたらきっとこんなごっこ遊びも終わりを迎えられる。


本当のお互いを知らないままで何が【恋】だ。



ようやく貴方と始められる恋物語。
私はその行く末が楽しみでふにゃりと微笑んだ。



さようならレンアイごっこ。
初めまして真剣なお付き合い。



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