愛を教えよう


「ねぇねぇ花子ちゃん、俺は花子ちゃんに何をあげたらいいかなぁ。」


彼女を腕に抱いたまま独り言の様に呟けば花子ちゃんは困ったように笑う。



花子ちゃんは俺を好きだと言う。
そして愛してるとも…
けれど俺にはそれがよく分からない。


だって花子ちゃんに何もしてないのに、キモチイイ事だってしてないのに
どうして彼女が俺の事を好きだと、アイシテルだと言うのかが分からない。



「花子ちゃんは何が欲しいのかな。金?宝石?服?体?」


彼女が俺にくれる感情はどうしてだか酷く心地よくて
胸のあたりがふわふわ暖かくなってしまう。
気が付けばそんな感覚に病みつきなっていた俺はもうこれを手放すことが出来なくて
どうにかして花子ちゃんを繋ぎ留めておきたいからお得意のギブアンドテイクで縛り付けようとするけれど
彼女はどれもこれも首を横に振って「いらない」と言うばかり。



困ったなぁ。
このままじゃいずれ君は俺に飽きて離れていってしまうじゃないか。



うんうんと悩んでいたら花子ちゃんは徐にこつんと俺の胸に頭を預けてぐりぐりとこすりつけてきた。
ああ、こんなくすぐったい感覚も何だか好きかも…



「私、コウ君のココが欲しい」



「心臓?」



ヴァンパイアの俺にはないモノなのに彼女はそんな無茶なお願い。
本格的に困った。
持ち合わせていないものは捧げようがない。
けれどそんな俺を見て花子ちゃんはおかしそうに笑う。



「ちがうよ、コウ君のココロが欲しいの」



「こころ?」



またそんな曖昧なもを所望するだなんて…
そんなの、俺だってよく分からないしどうやってあげればいいもわかんないじゃないか。
花子ちゃんはやっぱり笑顔を崩さないまままるで子供にお話を聞かせるように、ゆっくりとした口調で言葉を紡ぐ。



「ホントはね、コウ君の愛が欲しい…でも、今のコウ君はそんなの分かんないから…コウ君の【好き】を私に頂戴?」


「好きって…ボンゴレちゃんみたいな?」



曖昧すぎる彼女の言葉に首を傾げれば大きな声をあげて笑う彼女は悔しいけれどとても綺麗だ。
一通り笑った彼女はそのまま精一杯背伸びして俺の唇を奪ってまた笑う。


「そうだね、取りあえずボンゴレちゃんに勝つところから始めようかな。」


「?…うん、そう、だね」


彼女のそんな言葉にぎゅっと胸が締め付けられる感覚。
少し苦しくてそれを紛らわせるために更に花子ちゃんをぎゅうっと抱き締める。



「コウ君、私…頑張るね」


「ボンゴレちゃんに勝つことを?」



素朴な問いに彼女は自身も俺の背中に腕を回してぎゅっと抱き付いてきてくれた。
あ、まただ。
また胸がふわふわして暖かい。



「ううん、コウ君に愛を教えてあげる事を」



意味の分からない彼女の囁きにまた締め付けられる胸。
俺はもしかしたら何かの病気なのだろうか。


今はまだ知らない。
このふわふわした感覚も、暖かい気持ちも、締め付けられる胸も
全部全部


花子ちゃんに恋をしているからだなんて、
無知で無能な俺にはまだ理解することが出来ないでいる。


「さぁ、コウ君…私と恋を始めよう?」


それでこの心地いい感覚を確保できるのならと、
俺は彼女の甘くて優しい提案に賛同してしまうのだ。



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