たまにはね


「あれ、ユーマ君お勉強?」


「あー…なんか、すげぇ点数取っちまってルキにめちゃめちゃ説教されてよ…」



珍しく教科書を広げて難しい顔をしているユーマ君に話しかければそんな言葉が返って来た。
ここまで真面目に勉強するのだからよっぽど酷くルキ君に怒られちゃったんだろうなぁ…


けれどやはり慣れない事をしているからかすごく疲れている様子。
一生懸命教科書とにらめっこ、ノートに色々書き込みつつも大きな欠伸をしているユーマ君に何かしてあげたくて
私は邪魔にならないようにそのままキッチンへと向かった。




「ユーマ君、がんばってる?…って、だいじょうぶ?」


「お、終わった…」



暫くして戻って来てみれば机に突っ伏して瀕死の彼に思わず苦笑。
チラリと教科書やノートを見てみれば乱雑にいろいろ書き込まれていた。
ああ、頑張ったんだぁ…


だからあえて歴史上人物に彼お手製のヒゲが描き込まれまくっているには目を瞑る。



「よかったら紅茶どうぞ?ちゃんとシュガーちゃんも持ってきたよ。」


「ん、サンキューな花子」



私の手から紅茶を受け取ってそのまま一口飲めば難しかった顔と眉間の皺はみるみるとれてしまう。
ああ、よかった…少しばかりは役に立ったようだ。
安心して力なく笑えば彼も一緒に小さく笑ってくれた。


そんなのんびりした空間が凄く幸せで徐にユーマ君の頭に手のせてそのままゆっくり何度も撫でてみる。
いつも私がこうされれば嬉しくて安心するから少しだけでもそれをユーマ君にも味わってもらいたくて。



「えへへ、ユーマ君おつかれさま」


「…………花子、」



私が頭を撫でれば一瞬ビクリと体を揺らしてそのまま驚いた顔で私を見上げるユーマ君。
目が合って、そんな些細な事も嬉しくてにっこり微笑んで撫で続けていれば
彼は撫でていた私の手をぎゅっと押さえつける。


「ユーマ君?」


「もっと…これ、スゲェ気持ちいい」



そんな事を言いながら自らもぐりぐりと私の手に頭を擦り付けてくるユーマ君は本当に可愛くて
いつも大きくて格好良くて私を見降ろしている彼とは別人のようだ。
でもこんなユーマ君も私はすごく好き。


もっともっと気持ちよくなってもらいたいからそのままぎゅって抱き締めれば
細められる彼の瞳。ああ、うれしいなぁ…とっても気持ちよさそうだ。



「ん…花子、」


「眠いの?ベッド行く?」


「や、このままでいい…もっと頭撫でとけ」



どうやら彼はなでなでがお気に召したようで、そのままうとうとし始めて
私の身体に体重を預ける。少しばかり倒れそうになってしまったけれど今日くらい頑張る。


「普段使ってない頭使ったから疲れたのかなぁ」


「………おい、どういう意味だコラ」


「えへへ、」



私の言葉に少しだけむっとしてもぞもぞと動くからくすぐったくて笑ってしまう。
けれど彼のささやかな抗議もここまでだ。
ユーマ君はそのままおとなしく私の腕の中で眠ってしまった。



「かわいいなぁ…」


思わず口にしてしまった言葉に苦笑。
こんなのユーマ君に聞かれたらきっとすごく怒られてしまう。
でも仕方ないよね、だって腕の中のユーマ君の顔、すごく安心しきって安らかであどけない。



「おやすみなさい、ユーマ君」



起こさないように静かにキスをして傍にあったブランケットをかけて私もそのまま彼の傍に座って
ユーマ君を抱き締めたまま瞳を閉じた。



いつもいつも守られて甘やかされているんだ
たまにはこうして私が甘やかしてあげても罰は当たらない。



今夜だけはこうして貴方を甘やかして、このまま腕に抱いて悪夢からも守ってあげようと小さく心の中で決意した夜更け。



(「お、おう…花子、あの、よ」)


(「うん!ハイ、ユーマ君なでなでー!」)


(「…もっとしろ、」)



戻る


ALICE+