野獣スイッチ


嗚呼、今日も今日とてアズサ君が天使で始まる一日。
しかし少し違うのは…




「う、うへ…うへへ…寝たい。」



机の周りに散らばる何本もの栄養ドリンク剤。
可愛らしいマグカップには真っ黒な液体が並々に注がれている。
積りに積もったプリントの山と鬼の形相な参謀が私を威圧してくるぶっ飛ばしたい。



「花子…さん、少し…寝よう?苦しそう…」



「あず…あずしゃきゅうううううう」



「アズサ、野獣を甘やかすな。」



「チクショウ!!鬼!!吸血鬼!!!アズサ君はこんなにも天使なのにお兄さんはどこまでも鬼畜だ!!」



私の眼の下のクマや顔色…すでに半目になっている虚ろすぎる表情を見つめて
しょぼんと眉を下げてぎゅっと手を取って休憩を進めてくれるアズサ君をぐいっと私から引きはがしたのは紛れもない鬼畜参謀。



ビキビキと顔面に青筋を浮かべ残された力で喚き散らしたがアズサ君との距離は離れるばかりなのでぐっと涙を堪えてもう一度プリントへと視線を移した。





大量のドリンク剤、カップを満たしてる黒い液体…もといブラックコーヒー。
そして威圧してくるプリント。



全ては私の怠慢だとルキ君は言うけれど本当に悪いのは可愛い可愛いアズサ君が世界の摂理並みに可愛いのがいけないのだと思うけれどそんなのアズサ君のせいじゃないああ心配そうに私を見つめるのめっちゃ可愛い。




「花子がアズサと遊んでばかりで学校の課題をほったらかしにしたのが悪いだろう。」



「アズサ君でもないのに気易く名前呼ばないでください」



「野獣貴様。」



そう、毎日24時間というかもうなんか一分一秒油断なくすべて可愛いアズサ君に夢中になっていれば気が付くと課題が溜まりにたまってしまっていて遂に三日前、先生に呼び出しを食らってしまって今に至る。



今回ばかりは私のマブダチも学業と恋愛は両立しないととか自分の息子たち棚に上げてまともなこと言いだしっちゃったので私の周りに味方はいないのだ。




「ああ寝たい…寝たいよアズサくうううん!アズサ君を抱き締めながら一刻も早くスヤスヤしたいよ課題燃えろばかぁぁ!!」



「嗚呼、花子さん…可哀想…俺が…もやしてあげようか?」



「アズサ、甘やかすな」



「いやもうこれは逆に利用しようよルキ君。」




一向に進まない手を見てアズサ君はやっぱりやさしい言葉をかけてくれるけれど鬼は冷たい視線しかくれないムカツク。



そんな状態をさっきから遠くの方でぼんやり見ていたもうひとりの鬼…というか次男がコソリとアズサ君に何か耳打ちをする。



おいこのアイドル私だってまだアズサ君と内緒話したことないのになに勝手にそんな事してるんだ羨ましい今度内緒話しようねアズサ君だいすき。




もうあまり回らない頭で悶々と考えていれば
アイドル鬼に耳打ちされたアズサ君が少し頬を赤らめながら静かにこちらへと寄ってきてくれた。
ああ、数分ぶりに見る彼の顔のドアップ尊い写真撮りたい。



「花子さん…」



「アズサ君?」




ふにゃりと少し恥じらいながらも彼の顔が緩む。
え、なに。可愛い。天使?知ってた。



今から彼が何を言うかなんて知らない。
知らないけれどハッキリしているのは今から紡ぐ言葉は先程耳打ちされたアイドル次男鬼からの言葉なのだろう。



正直彼からの言葉だと思うといくらアズサ君が何を言おうがどうしようが満身創痍の今じゃトキメキもくそも…




「課題…終わったら…ええと、俺の事…すきにして、いいよ?」








それからちょっと記憶は曖昧だけれど
意識をきちんと覚醒させた時、私は職員室で
先生に課題の内容が素晴らしすぎて感動したと沢山の賛美の言葉をもらっちゃっていた。




……少し、腰のあたりが痛く感じたのは気のせいだろうか。




アズサ君の捨て身の台詞は私にとんでもないやる気を与えてくれると確信した一晩。
彼は相変わらずかわいかったですハイ。



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