提案


「この世の全ての健康体はもれなく滅びろ今すぐだ。」



「……え?じゃぁ俺も滅びる…?」




「やだぁアズサ君は滅びちゃいや!だって私の小悪魔ちゃんだもの傍にいてぇ?1人は淋しいよー!!!」




普段より掠れた低い声で唸れば傍にいた天使…もとい私の小悪魔ちゃんが悲しそうな顔をしちゃったので
そのままずるずると細い体を私が横たわっているベッドへと引き摺り込んだ。
現在私の体温39度、アズサ君の冷たい体が最高に気持ちいい。



「花子さん…顔色悪いね、可哀想…よしよし」



「アズサ君知ってる?熱は相手に移すと治るんだって。ここは申し訳ないけど一晩かけてアズサ君に移したいから大人の時間始めませんか?」




しょぼんと眉を下げて優しく頭を撫でてくれるアズサ君に1m位の厚みがあるんじゃないかって位の頑丈すぎる私の理性が粉々に破壊されて勢いで彼の上に乗っかった。



…何処かから「貴様に理性なんて存在しないだろ調子乗るな野獣」って言うどっかの長男の声が聞こえた気がしなくもないけれどそんなの無視だ。



でも今回はこのままレッツメイクラブにはならないようで、さっきまで悲しそうな顔をしてたアズサ君がむすっと不機嫌になってそのまま今度は私をぐいっとベッドへと押し倒して形勢逆転。



「だめ…イケナイことは…花子さんがげんきになってから…ね?」



「いやいやいやいまその可愛い仕草で元気になっちゃったよアズサ君色んな意味で!!!」



「だーめ…お預け。」




くたりと首を傾げながら優しく子供に諭すように言ってくれるアズサ君はとてもかわいいけれど
私を押し倒したままそんな事言っちゃうので色気もハンパない。
もう熱だけじゃないのは分かり切ってるくらい顔を真っ赤にしながらアズサ君にオネダリするけれどあっさりと切られてしまった。
うう…アズサ君って結構頑固だよね。



「すこし待ってて…冷たいタオル…あと、ごはん、持ってくるから…」



「そんなのどっかの参謀に任せとけばいいよアズサ君は黙って私にぎゅうぎゅうされててよ何の為に風邪ひいたと思ってんの。」



「ごめんね…俺、弱った花子さんの為に…沢山色々してあげたいから…わがまま、きいて?」



「取りあえず10年位待ってみるね。行ってらっしゃい。」



なんだよやっぱりアズサ君は小悪魔じゃなくて天使だな。
うんうん、こんなに健気に動いてくれるとかアズサ君に風邪を名目にでろでろに甘えてぎゅうぎゅうしてあわよくばそのままむふふとか考えてた私が穢れた生き物のようだ。
いやけれど私は純粋な美少女である。誰にも訂正させないからな。




彼の言いつけ通り大人しくベッドで待っていれば数分後にひょっこりと扉から顔を出してくれるアズサ君に私の胸中は感激の嵐である。
すごい!待ってて言われて数分で来てくれた!!流石!!!流石マイエンジェルアズサ君!!!
知ってた!!私10年待つって言ったのに数分で来てくれるとかホント彼は慈愛に満ちている私の彼氏が天使すぎてツライ!!!



「おまたせ花子さん…はい、」



「アズサく…ありが…っ!?」




にっこり笑顔のアズサ君に癒されて、実は正直高熱が酷過ぎて結構しんどかったので
そのまま彼がタオルを出してくれたので甘んじて額にそれを受けた。
受けたのはいいのだけれど…



「…アズサ君、これ。冷たいね。」



「うん、えっと…急速冷凍装置…っていうのに、入れて…ふふ、花子さん気持ちいい?」



「き、きもちー…」



もうなんかうん、タオルちょっとガッチガチだなって思ってたけどさ。
彼が持ってきてくれたタオルを額に受けた瞬間冷たいというかもはや痛い領域で、
違和感しかないそれの正体を本人に問えば帰って来た答えに思わず真顔になってしまう。



そっか…アズサ君看病の仕方分かんないから取りあえず熱あるなら最高に冷いしとけスタイルかぁ。




けれど期待に満ちた眼差しで見つめられてしまっては「これはやりすぎだ」なんて言えるわけなくて
そのまま甘んじて冷たい通り越していたすぎるタオルを受け止めていれば今度は差し出された小さな鍋に期待が膨らむ。



「アズサ君、もしかしてご飯作ってくれたの!?」



「うん、ええと風邪の時はおかゆ…で、いいんだよ…ね?」



「うん!そう!大正解!!流石アズサ君天才だよね!!!わぁい!いっただきまー…」




彼の言葉に今度は大正解だと大喜びで鍋の蓋を開けたまではいいけれど
その中身を見た瞬間私は笑顔のままビシリと固まってしまった。
…おかゆって、魔界ではこれがおかゆって言うのかな?後でマブダチを問いただそう。



「ええと、トマトリゾットかな?」



「?違うよ?…おかゆ。」



「そ、そうだよねーおかゆだよねーごめんねアズサ君花子ちゃんうっかり。」




目の前の光景を目にして笑顔で問えば彼はくたりと首を傾げて私が熱でおかしくなっちゃったのかな?って顔で見つめてくるから
慌てて訂正してもう一度目の前の鍋を見やる。



真っ赤だ…。



いやもうコレ中身分かる。
たぷたぷと音がしそうな程大量にぶち込まれたタバスコとこんもり山盛りにされてる一味。
…そして申し訳なさげ程度にチラリとそれらに染められてしまって真っ赤になってしまっている元白米がこちらを泣きながら見ている。




「風邪の時はたくさん汗をかいた方がいいんでしょう?…だから、がんばっちゃった。えへへ。」



「やだもうアズサ君私の為に何から何までありがとう大好きだよ。…でもね?」




コトリとその残酷すぎる鍋を近くにあったテーブルへと避難させてもう一度彼をベッドの中へと引き摺り込む。
そして今度は逃がさまいと精一杯ぎゅうぎゅうとその体を必死に抱き締めればまたくたりと首を傾げちゃうアズサ君はやっぱり天使だ。




「やっぱり大好きなアズサ君に風邪、うつしたいなーって。それから、私がアズサ君の看病したい。」



「………どうして?俺、看病…間違ってた?」



「ううん、間違ってないよ?」




私の言葉に不安げな瞳を揺らしてしまうアズサ君に風邪菌で犯されちゃってるけど我慢できずにキスをして
そのままニッコリ微笑んだ。
確かに内容は殺人クラスのモノだけれど根本は間違ってない。




病気で弱ってる人の事を考えて一生懸命行動するって言う根本は大正解だ。




だから後は私がその細かいというか…ちょっと違ってるアズサ君の看病の内容を教えてあげればいいと思う。
それにちょっと弱ってるアズサ君もかわいいかも…なんて不謹慎ながら思っちゃってるし。




「だから…ね?大人の時間は正直私もしんどいから沢山キスして移しちゃっていいかな?」



「…?花子さんがそうしたいなら…いいよ?ほら、…ちゅっ」




この提案に私の体に負担にならないのならとあっさり受け入れちゃったアズサ君から沢山のキスが降ってくる。
嗚呼、自分から提案していてなんだけどこれ…確実に風邪移っちゃうなぁ。なんて。



すきとか愛とかもそうだけど
こういうの…こういう何気ない事も全部全部そのまま受け入れろって訳じゃないけれど




こういう方法もあるんだよって、
天使で子悪魔でいろんな意味で純粋なアズサ君に提案していければいいなって…



ちょっと生意気な事を考えてしまった少し熱上がって39.8度の夜。



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