可愛いご報告


ええと、これは一体どう言う事なのだろうか…



無神家にそっとお邪魔してみるとどうしてだか皆さんリビングで様々な体勢で眠っていた。
周りには沢山の空き瓶…
ええっと、本当にどうしたのだろうか。
一番近くに転がっていた瓶を手に取ってラベルを見てみるとそこには見慣れない言葉が書いていた。



「ヴァンパイアジュース…?」



言葉を復唱してふと思いだす。
そう言えば以前ルキさんがヴァンパイアにとってお酒のような効果をもたらすジュースがあるとかないとか聞いた事がある。


…あとそれを飲んだシュウさんがとんでもないことになっていたと言う話も。
と言う事は皆さんが屍の様にこうしてリビングで眠ってしまっているのはこのヴァンパイアジュースが原因…



「ええと、毛布毛布…」



勝手ながらも部屋を探索して取りあえず毛布を四枚探すのに必死になる。
本当は皆さんをお部屋まで連れていってあげたのだけれど…
申し訳ないことに私は男の人を担げるほどの腕力は持ち合わせていない。
だったらせめて風邪をひかないように毛布位はと思ったのだけれど…



…吸血鬼さんは風邪って引くのだろうか。




え、まって。
これもしかして有難迷惑なんじゃないか?
風邪ひかないのにわざわざ毛布とか恩着せがましいとか思われたりしないだろうか…
寧ろ偉そうにお世話係でも気取っているのかとか思われたり。



「………」




相変わらず後ろ向きな考えが高速で頭の中を回転したけれど
静かに何度も1人で首を横にする。
彼等はそんなひとじゃない。うん。
それに私だって自分のしたい事するって誓ったじゃないか。大丈夫。




ずるずると四枚の大きな毛布を引きずりながらリビングへ戻って皆さんへそっと毛布をかけていく。


部屋の隅っこで丸くなっているアズサさんに静かにかけてあげればふわりと彼の体の力が抜けた気がしてほっとしたし


床で大の字になって眠ってるユーマさんにも毛布を掛けようとしたら私の気配というかふわふわの毛布の気配に本能が気付いたのか大きな手が私からそれをひったくって「んんん」と低く唸りながらまるまって再び眠りについいたので苦笑が漏れた。


空き瓶を抱えながら眠ってるコウさんにもかけてあげるとその顔はふにゃーって笑顔になってくれたのでこっちもつられてふにゃーっと笑顔になってしまった。



うん、皆さんの可愛いリアクションを見れたからやっぱり毛布、持ってきてよかったかも。




「後はルキさん…」



チラリとソファで静かに眠っている彼を見つめて起こさないようにそっと近づいて行く。
うん、以前もみてるけどやっぱりイケメンさんは眠っていてもイケメンさんである。


このままだといつまでも彼の顔を見ていて毛布が掛けれないと、一度視線を逸らし目に入った時計を見て愕然とした。
…そうだ、私今日はココに只遊びに来たわけではなかった。



「る、ルキさん…ルキさん起きてくださいルキさん。」



遠慮がちに呼んでも全く起きてくれない。
どうしよう…時間。時間がない。
私、今日はカールハインツ様のお使いでここに来たんだった。




何でも今日はルキさんに用事があったのだけれど恐らく眠ってしまっているだろうから早めにルキさんの元へ行って様子を見てくれないかとのことだった。



あの言葉から察するにこのジュースを送り込んだのはおおよそカールハインツ様だと見ていいと思う。



今日の事があるの分かっててどうして無神家にこんなものを送ったのかは分からないけれど…取りあえずカールハインツ様を敬愛しているルキさんが彼との約束に遅れてしまうのは恐らくルキさんの本意ではないと思うのでがしりと体を掴んで必死に揺らしてみる。




「る、ルキさん!ルキさん…あの…っ、カールハンツ様とのやくそ…くぅ!?」



「………?花子?」




必死にゆさゆさと体を揺らして何とか起きてもらおうとしていれば不意に勢いよく体を引っ張られてそのまま彼の腕の中へとなだれ込む。
するとようやく目を開けてくれたルキさんがじっと私を見つめるけれどその眼はいつもより虚ろだ。
…どうしよう。まだ完璧に起きてくれてない。




「えっと、ルキさん…起きてください。」



「いやだ。」




………………ん?





彼の意外過ぎる返事に思わず固まってしまって数秒変な沈黙が流れてしまった。
いや、普段の彼なら「そうだな。起こしてくれてありがとう。」なんて言ってすぐに起きてくれるはずなのに
目の前の現実のルキさんはぶすっとふくれっ面でこちらをジトリと睨んでくるばかりである。
え、この人ホントにルキさん?




「ええと、カールハンツ様とのお約束があるんですよね。」



「知らない。」



「えっと…ちゃんと起きないときっと後悔するとおも…」



「いやだ。俺はこのまま花子と寝るんだ。」




…駄々っ子だ。なんだこの駄々っ子。
ぎゅうぎゅうと私を抱き締めたままごろんと体勢を変えてしまったので今、彼は私に覆いかぶさって尚もぎゅうぎゅうと抱き締めている…というか抱き付いている状態だ。



きっと普段ならすぐに起きれるのだろうけれど例のジュースの所為で今のルキさんの寝起きは最悪に悪いらしい。



「ほ、ほらルキさん…起きましょう?カールハインツ様お待ちですよ?」



「…………カールハインツ様」



「そうですカールハインツ様ですよ?ほら…ね?」



「…………」




ぶっすー。
もうそんな効果音がぴったりすぎる彼の表情にもう私は困り果ててしまっている。
きっと彼の中でカールハインツ様との約束と私と一緒に寝たいと言う願望がもはや血で血を洗う決闘が行われているのだろう。




どうしよう…今どうしてあげるのが彼にとっての最善なのだろうか。




…いや無理矢理にでも起こしてカールハインツ様の元へ連れていくのが最善なのは分かってるんだけれどうん…
だってルキさんがこんなに葛藤してしまうまで私と一緒に寝たいと言うなら…その、あの…叶えてあげたいというか何というか。



「うううううどうしよう…」



「………なら、花子と一緒に行く。」



もう本当に困ってしまって出てしまった私の嘆きの言葉にちょっと反省してくれたのかしゅんとした表情になって彼なりの可愛い妥協案を出してくれたので思わず吹き出してしまった。



どうしよう…ルキさんがこんなに甘えてくるのがこんなに可愛いとは思わなかった。
珍し過ぎる彼の可愛い言動に思わず自分からも背中に手を回してぎゅっとルキさんを抱き締めてあげるとすごく嬉しそうに笑って…




そして次第に真顔になり顔色がふわふわとしたほんのり桜色から北極もびっくりな真っ青状態になっていくルキさんに私は小さく苦笑してしまう。




「今度こそおはようございます。ルキさん。」



「今までのは忘れろいや忘れてくれ違う忘れてください頼むから」




私からのハグでようやく正気と言うか意識をきちんと覚醒させてくれたルキさんは私に覆いかぶさったままで冷や汗を流しながらすごく早い口調でそんな事を言ってしまうのでまた吹き出してしまう。
もぞもぞとそんな彼の下から抜け出してぐいぐいと腕を引っ張ってようやく体を起こすことに成功する。



「ほら、カールハインツ様の所に行きましょう?“一緒に”」



「いやだからあれはだな…!」



「いえ、もう時間遅れてしまいましたし…ルキさんをお迎えに来た私の責任なので一緒に謝りに行かせてください。」



「…………わかった。」




気が付けば約束の時間からもう10分も過ぎてしまっている。
私の言葉に悩まし気に天井を仰いで溜息をつきながら同意してくれたので二人でこっそり弟さん達を起こさないように部屋を抜け出した。
しっかりつながれた手に顔がゆるむ。



寝ぼけていたとはいえあの言葉…私と一緒に居たいとか寝たいとかそういうの…ルキさんのちょっとした本音だと思うから
こうやって離さないように手を繋いでくれることが何よりも嬉しい。




二人なら吸血鬼の王様に怒られてしまうのも何だか悪くないかなって思えるから…素敵。






「さて、ヴァンパイアジュースの効果もあって甘えん坊のルキを見る事が出来たと思うんだけど…どうだったかな?花子君。」



「え?」



「は?」



お咎め覚悟でエデンへと赴いた私達を迎えたのは「今年甘えん坊男子が来る!」とでかでかと表紙に書いてある雑誌を手にもってわくわく顔のカールハインツ様の言葉に呆然としてしまう。



そう言えばここに来るまでにルキさんに用事は何なのかと聞いても教えられてないと言っていたけれど…
もしかしなくてもカールハインツ様は私にあのルキさんの感想を聞きたくて…?




隣のルキさんを見上げれば相手が相手なだけに怒れないし叫べないし恥ずかしいしと
顔を赤くしながらもはや涙目である。
そしてそんな彼を見つめながら小さく笑って私は目の前の吸血鬼王に今回の報告をしっかりとさせて頂く事にした。




「はい、とても…とっても可愛かったです。」



「…!花子…っ!」




私の言葉に目の前に王がいるにもかかわらず膝から崩れ落ちてしまった最愛を見て
お茶目な王様と私は顔を見合わせて小さく笑った。




うん、ルキさんの可愛い本音…
本人には申し訳ないけれど絶対忘れられそうにないかもしれない。



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