三つのストーリー
「…何してんの。儀式?俺の事呪う気?」
「ち、違いますよ!明日晴れるようにおまじないしてるだけです!!」
花子に会いたくてそっと彼女の部屋の扉を開けて
広がった光景に思わず真顔のままそんな台詞を吐いてしまった。
返って来たのは可愛いものだったけれどこの光景はそんなもんで済ませられるもんじゃない。
花子の部屋のいたるところに小さな俺の人形が散乱している。
そしてそれらすべて、首つられてるんだけど…
なんだコレ、俺を絞め殺したいと言う遠回しな殺人予告か何かなのだろうか。
「ホントなんなのコレ…」
「何って…てるてるぼうずです!」
「…………どう贔屓目に見ても俺の呪い人形だこんなの。」
ひょいっと手近にあった一体の首つりシュウ人形らしきそれをつまみあげて彼女に問えば何とも予想外すぎる答え。
てるてるぼうずとか…そんなんだったら紙丸めて適当に作ればいいだろなんでこんな無駄に凝ってるんだそしてなんで全部俺の顔かいてるんだどうせ俺の事が好きすぎてだろ分かってる辛い。
そして彼女のこの若干狂気じみた儀式の理由も分かり切ってるので正直怒るに怒れないと言うのが現状だ。
「晴れだろうが雨だろうが問題ないだろ…映画。」
「いやいやいや!初めてお昼からシュウさんとデートなんですよ!晴らします!」
「晴らすって…花子は神様なのか?」
呆れきった俺の言葉なんて無視して再び呪いのシュウ人形…もといてるてるぼうずを量産していく花子にでかい溜息が出る。
…そんなに俺とのデート楽しみなのか。
どうやら明日、レイジが屋敷の大掃除をしたいらしく
いつだってどこらかしこで眠っている俺が屋敷内にいると効率が悪いと追い出したいらしく二枚の映画チケットを寄越したのだ。
ついでに「シュウさんシュウさん」と毎日煩すぎる花子も追っ払いたかったらしい。
まぁ別に断るのも面倒だったのでレイジの追い出し作戦に乗ってやったのはいいけれど…これだよ。
「嗚呼、どうしよう明日シュウさんとの映画デート何着ていこう…あ!お化粧もきっちりしたい!!靴はもらったパンプスで決まってるけど…あああああ」
「…………。」
遠足が楽しみ過ぎて興奮するガキよりもガキっぽい最愛の輝いてる瞳を見つめてもう一度溜息。
俺と只少し出かけるだけだって言うのにこのはしゃぎよう…
嬉しいけどちょっとくすぐったい。
「先が思いやられる。」
小さな俺の独り言は大はしゃぎな花子に届かないまま空気に溶けてそのまま消えてしまった。
「……………」
「…何。そんなに見つめちゃって。」
「…昼間に見るシュウさんはいつもと違った魅力があって天使過ぎて…あ、いつもも天使なんですけどああもうホント好き…うっ!」
「まてまてまて泣くなまだ早いだろなんで外出た瞬間に泣くんだせめて映画で感動してから泣くとかにしろ」
「私はいつだってシュウさんの存在に感動してる!!!」
帰りたい。
屋敷を一歩出て進む足を止めてしまった花子を見やればこれだ。
太陽に照らされた俺が新鮮だか何だか知らないが開始一歩で感動の余り号泣してしまう最愛をそのままずるずると引きずって映画館へと向かう。
ったく…なんで俺が花子を引きずって目的地まで行かなきゃいけないんだ。
こういうのは今までの女なら俺を必死にそいつらが引っ張っていくパターンだったのに。
「天使!」「妖精!」「この世の奇跡!」と泣きながら喚き散らす花子を何とか映画館に連れていけばようやく涙も俺への賛美もやんでぱああとその顔はとても嬉しそうな明るいものへと変わる。
………だから、そういうの。くすぐったいって。
「ホラ、もうすぐ上演時間だから…ん。」
「?」
「……映画館デートは恋人同士のテッパンだろ?だったらちゃんと恋人同士らしく…な?」
「私確実に明日命のともしびが消えてしまうのですね後悔はないです。」
小さく咳払いをして手を差し出せばくたりと首が傾いてしまった花子に笑ってしまい、そのまま強引に小さな彼女の手を取れば
素直に乙女チックな反応すればいいのに感動しすぎて色気もなにもない言葉。
全く…ホント花子は俺の事が好きすぎて笑える。
「ああ、そうだ。席についてもずっと手、離さないから。恋人同士ってそうするんだろ?あ、あと暗いからキスもする?」
「…………」
「おいなんだその顔嬉しいの嫌なの照れてんの?」
嬉しそうな花子に対してからかい気味にそんな事を言ってやればなんともまぁ複雑な表情。
顔上半分は真っ青。下半分は真っ赤。
涙を溜めながらぶるぶる震えているけれど口元はにやにやと緩みまくってる。
…人間ってここまで複雑な表情出来るんだな。
「そんな事されちゃったら私映画館で正気保てる自信ないですでもシュウさんにだったらそれもやぶさかではないご褒美この映画館出禁になる覚悟でしてくれますか好き。」
「………結局行きつくところはそこなんだな。」
様々な葛藤の末結局出てきた言葉は俺への愛の言葉でもはや笑うしかできない。
嗚呼、今日も花子が俺の事を好きすぎてツラい…
それと、しあわせだ。
「ほーら、嬉し過ぎて断末魔出そうだったら俺が唇塞いでやるから。」
「あああああもう映画の内容入る気がしない!!」
通路を歩ききってシアターの前でド緊張してしまっている花子をまた此処に来るときの様にずるずると館内へと引きずり込んだ。
取りあえず俺達の両隣、誰か客来たら運がなかったなとしか言えないだろう。
だって俺はこれから花子の手をずっと握って時々そっとキスをするつもり。
そうしたらどうせ花子の事だ、声は我慢で来ても動揺と感動の余り酷く体を揺らすだろうしずっと啜り泣くと思う。
そんなのが隣にいて映画なんて集中できるわけがないからな。
「あー、可哀想。」
「?シュウさん?」
「ん?こっちの話。」
さて、花子には約二時間少し…感動の拷問に耐えてもらうとしよう。
昨日俺と昼間出かけることが出来て大はしゃぎな彼女を見て自分も結構浮ついてしまっているのかもしれない。
嗚呼、これはレイジに映画内容の感想求められても何も言えないな。
なんて、そんなどうでもいい事を考えながら上映開始のブザーを静かに待っていた。
チラリと見えた映画の半券。
砂糖吐く位甘いと噂のラブストーリーだけれど
きっと俺と花子だけはそんなの関係なくこのあまったるいストーリーが流れてる間も俺の事が好きすぎて頑張る耐久ドキュメントとそんな花子の反応を見て楽しむコメディーストーリーを繰り広げてしまうのだと思うともう楽しみで仕方がない。
「早く始まればいい。」
そんな言葉と同時に「ブー」と上映開始の合図が鳴り響いた。
こんな一つのシアタールームで三つのジャンルのストーリーが展開されるとか…
そうそうあるもんじゃないかもな。
なんて、
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