ナイショのメール


授業中、学年の違う恋人とこっそり携帯のメールで
「愛してる」「私も」「…学校終わったら覚えといてよ?」「…もう」
とかそう言う甘い会話をしてみたいと言うのが実は俺の憧れだったりしますアイドル無神コウですこんばんは。



「俺だってったまには花子ちゃんと少女漫画チックな事してみたいんだよね〜…」



いつもの授業風景。
こっそり先生の目を盗んで携帯を取りだした。
ふっふっふ…いつもホモホモ逆巻さん天使最高って煩すぎる花子ちゃんだって今はきっと大人しいはずだ。
だって授業中だもん。


今日は授業開始前にシュウ君の寝顔画像あげるから授業中携帯手に持っててとお願いしてある。



…ここで俺の画像をあげるからって言っても「いらない」の一言で済ませられてしまうのは分かってるからもう先にシュウ君で釣ってしまう俺は本当に可哀想だと思う。



「やってみたかった…こういうの。」



画面を指でタッチしながらにやける顔を抑えることはしない。
ドキドキしながら画面に「愛してる」って打っていく。
きっとこれを送信したら花子ちゃんも「私も」って返信してくれるに違いない。
授業中と言う背徳感とドキドキが相まってしまうこういうシチュエーション、意外に憧れてた。



「よーし…送信っと。」



完成した文章を送信ボタンをタップして最愛へと送る。
きっとこれを見た花子ちゃんは少しばかり頬を赤らめてそれでいて穏やかに笑ってくれるに違いない。
そう思ってによによとだらしない笑顔になりながら彼女の返信を待つ。



たまにはこう言う学生恋人らしい事したいんだよね。
ホントは休憩時間とか短い時間を惜しみながらもイチャイチャしたいけど逆巻三つ子ときゃっきゃやんやしてるから無理だし。



お弁当タイムの時だって屋上で一緒に…っていうのしてみたいけど大天使シュウ・サカマキ観察で忙し過ぎて相手してくんないし。



………なんで俺がこんな目に遭ってるんだよ花子ちゃんは俺のエム猫ちゃんなのになんで猫な彼女を俺が追いかけて…



いや、花子ちゃんがエム猫ちゃんとかそんな可愛いアレじゃないのは彼氏である俺が一番よく分かってるじゃないか。
腐女子だし俺に対してドSだから…



S猫ゾンビ…?




やだやだそんな恐ろしい生き物と付き合ってる自覚したくない。
ぶんぶんと首を横に振っていれば静かに携帯が揺れた。
あ、花子ちゃんから返事来た。
少しそわそわしながら返信内容を開けて、俺は予想外すぎる言葉にビシリと固まり
そして無言でガタリと席を立った。



「あんのSネコゾンビぃぃぃぃぃい!!!!!」



地を這う声で唸り、そのままクラスメイトの騒めきも先生の制止の言葉も聞かないまま教室を飛び出した。
目指すは花子ちゃんの教室一点のみである。
だから!何で!花子ちゃんはこう言う時も腐女子なんだって言うんだよ!!!



「ちょっと花子ちゃん!さっきのメール!!!何!何なの!!!ちょっとは俺の彼女らしくしようと言う努力を見せてください!!!」



「……………今は授業中ですよ無神君少し静かにされてはいかがですか?」



「ぎいいいいい!!!何だよいきなり乱入して怒ってんの!?敬語とかやめてよ淋しい!!!!」



スパーンと大きな音を立てて彼女の教室に殴り込めば真顔で返ってきてしまった台詞に頭を掻き毟って叫び散らす。



確かに!確かに今は授業中だけどさ!!俺をここまで怒らせたのは花子ちゃんでしょ!ていうか今は真顔の花子ちゃんが何か怖いからもう何も言えないけど!!!



突然の先輩アイドルの登場にあっけに取られてる可愛い後輩エム猫ちゃん達ともはやなにも言えずにポカーンか教師を無視してずかずかと花子ちゃんの机の前まで歩み寄る。
そしてずいっと自身の携帯を差し出してもはや俺は涙目である。



「俺は!授業中!!あっまーい時間をちょっと教室離れちゃってる花子ちゃんと楽しみたかったの!!なのに何コレ!!!!」



「?あっまーい内容じゃん。」



「確かに!確かに甘いけど!!甘いけどジャンルが違う!!!」




ばんばんと机を叩いても花子ちゃんは何が気に食わないんだと言った表情で俺を睨むけど
この文章でご機嫌になる彼氏とかいたら俺見てみたいけど!?



「俺が“愛してる”って送ってんだから恥じらいながら“私も”ってハートマーク付けて送り返せよ!!何でシュウ×コウの甘い小説送ってきちゃったんだよ!!」



「え、コウ君が遂にシュウ様に浮気したと思って…でもシュウ様になら私も悲しいけどコウ君預けれるって思って渾身の想いを込めて書いて上げたんだけど。」



「諦めないで!俺を抱き締めて離さないで花子ちゃん!!違うそうじゃない!!」



相変わらず真顔な彼女にもう今授業中とかそんなのすっかり忘れて最大限の音量で喚き散らす。



そう、俺の愛の言葉の返答は可愛らしいものじゃなくてすっごい長文のシュウ君と俺のあまーくてかわいー小説だった。
いや確かに甘くて可愛いお返事だけどね?
でも俺が求めてるのはシュウ×コウじゃなくてコウ×花子ちゃんなんだよね!!!



「どうしていつだって花子ちゃんはフラグバキバキに折っちゃうの!!俺はいつだってトキメキロードを用意してるのに!!」


「そんな素直に王道に乗るより私はマイナーカップリングの方が萌える派なんだよね。」


「どこまでも変なとこに走ってんじゃないよこの腐女子!!!」



いつだって素直に俺の言動に乗ってくれない彼女に不満を巻き散らせばまったりした口調でそんな台詞。
もう俺の顔面は青筋まみれである。



「俺だって!俺だって花子ちゃんとトキメキな時間をすごしたんだよ!!!」



「なんで彼氏のコウ君がそんな乙女チックな思考回路してんの?受け?受けなの?知ってたけどやっぱり受けだね可愛い。」



「ううううう煩いよ!俺は攻めだつってんでしょ!!!……はっ!」



いつも通りに彼女の会話に訳き散らしてようやく我に返って静かに体を震わせる。
…やばい。今花子ちゃんとふたりきりじゃなかった。



彼女のクラスメイト達の疑惑の目がこちらに向けられてしまってる。
「受け?攻め?コウ君何言ってるんだろ…」「シュウさんとコウ君の間に×入れてるけどあれって…なに?」「そもそも腐女子って?」
そんなひそひそした会話が耳に入って俺の顔面はもう真っ赤だ。



そ、そうだった…いつも花子ちゃんとべったりだったからその…
俺、普通にオタク用語を公衆の面前で喚い…



「……………おじゃましましたー。」



スススと静かに、そして流れるように教室の扉まで戻ってそのまま顔を真っ赤にしたまま退出してピシャリと閉じる。
瞬間教室内から先程まで小さかったざわめきの音量が酷く大きくなってしまいもはやパニックと化してしまった。



そりゃそうだ…だって皆の人気スーパーアイドルから意味不明な単語連発だもんそりゃパニックになっちゃう。
というか俺が発言した言葉全部検索サイトとかで調べられたら俺は社会的に抹殺されてしまう。



「…授業に恋愛のトキメキを求めた俺が悪い。」



ずるずるとその場でへたり込んで1人で反省。
そうです、授業は真面目に受けるものです特に相手が花子ちゃんみたいな腐女子ならなおさらだ。
すんなり愛の言葉が返って来る訳ないじゃないか何夢見ちゃってたんだ俺は。




「で、でも…トキメキイベントぉぉぉぉ」




それでもあきらめきれない俺はもうホント…
花子ちゃんに夢中なのかなぁと思うと何かすっごく負けた気がして悔しいので
いつか…いつか花子ちゃんも俺に夢中にさせたいと思う真夜中
彼女の教室内で「え、コウ君って腐男子だったの?」と言うクラスメイトの言葉を聞いて弁解の為にもう一度殴り込んだ少し肌寒い夜の出来事。




このままだとまた冬コミは俺の総受け本が出そうでちょっと怖いです。



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