10:白薔薇に間違われる私
「まさか、人間違いで誘拐されるとは思いませんでした…」
「うるせぇ!」
「ひぃ。」
ドカッと、大きな音を立てて壁が崩れ落ちる。
もうそんな馬鹿力があるならこの牢屋の鉄格子もぐにゃりと曲げてくださいよ。けれどこの鉄格子はヴァンパイアの彼でも曲げることのできない強固なものらしい。
すごくイライラしているであろう彼は、ルキさんとは正反対な真っ白な髪の毛で瞳は血のように真っ赤で、とても怖い。けれど私は彼の事を知っている。
「お、落ち着いて下さいよスバルさん…」
「あ?なんでお前が俺の名前知ってんだよ。」
初対面だろうが。と、付け足されて少し苦笑い。
「逆巻家には乱暴だけど優しくてツンデレな引きこもりの末っ子がいると小森さんから聞いてますので」
「な…!や、優しい!?つんでれ!?はぁ!?」
顔を真っ赤にして盛大に照れるスバルさんを見て
ああ、またコウさんとは違った可愛さだなぁとぼんやり考えながらも、うーんと、無意味なのをわかっていながらガチャガチャと格子を揺らす。
そもそも私がここに連れてこられたのは人違いだ。誰がここに連れて来たのかは分からないが、どうやら小森さんと私を間違えたらしい。
どうやったら私と彼女のような美少女を間違えるのか疑問である。
目腐ってるんじゃないだろうか。
「すいませんねぇ小森さんじゃなくてこんなんが傍に居て。」
「別に…アイツが無事なら、それでいい。」
「ふふ、小森さん愛されてるなぁ。」
「そっ、そんなんじゃねぇよ!」
照れて、床をバンバン叩いている仕草は不器用ながらもホント可愛い。
いいなぁ青春って感じだ。
「…つーかお前、落ち着いてんのな。こんな状況なのに。」
「え、私今怖くてガクガクですけど。」
「え」
「え」
何ですかその驚いた顔はスバルさん。
そりゃ顔には出てないかもですが、もう身体とか怯えきってブルブル震えてますよ。怖いにきまってるじゃないですか私一般人だもの。
すると小さな声で「ワリィ…」って聞こえたものだから思わず吹き出して笑ってしまった。
「な、なんだよ!」
「や…ヤダこのイケメン優し過ぎる。」
「…優しくねぇし。」
何だこの人、見た目すごく怖いのにすごくかわいい性格をされているのでしょうか。
そんな可愛い反応の彼に対して思わずうへへと笑うと、色気ねぇなお前とつられて彼も笑った。瞬間、聞き覚えのある声が聴こえたので
顔をそちらへ向けるとそこにいたのは大変慌てたユーマさんの姿。
「おい花子、無事か!」
「うわーん助けに来てくれると信じてましたよおうじさまー。」
「うるせぇ!誰が王子様だ誰が!って逆巻んとこのヒキコモリじゃねぇか。…まさか吸われたりしてねぇよな。」
スバルさんを認識するや否や顔色を真っ青に変えて私の首や足、服をめくって確認する。
「吸われてませんよ。こんな不細工の血吸ってどうするんですか頭おかしい。っていうかどうしたんですか急に。」
「や、これ以上ルキを怒らせたくねぇ。」
「ルキさん?来てるんですか?」
当たり前だろ?お前の王子様なんだからよ。と
そんな事を言いながら、持っていた鍵でガチャリと牢屋を開けてくれた。
「もう今のルキマジおっかねー。今ボスんとこ行ってるみたいなんだけどよー。」
ガシガシと頭を掻きながらユーマさん曰く
私が誘拐されたと知った瞬間、手に持っていたテレビのリモコンを握り潰しそれはもう素敵な笑顔で
『お前達…今夜のおかずはハンバーグとかどうだろうか…?』
…と、言い放ったらしい。
ありゃ絶対今頃犯人ミンチにしてるわ。マジこえぇ。
その光景を想像して思わずぶるりと背筋が凍る。
「おら、とっとと帰るぞ!おい、お前も早く帰れよ。」
「あ…お、おい!」
「スバルさん?」
「な…なまえ!」
ユーマさんに抱え上げられたままスバルさんに呼び止められたのだがユーマさんはそれを無視して大股で歩き続ける。
どうやら一刻も早く私をルキさんに差し出して怒りを鎮めたいらしい。
いやいや何この大魔王に差し出す生贄のような扱い。
確かに怒ったルキさんは手が付けられないけれど…
「えぇっと詳しい事は小森さんにて…?」
「お前そんな続きはWebでみたいな…!」
そんな私の声と噴出したユーマさんの声が牢屋中に響き渡ったのだった。
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