3:罰とう名の公開処刑


「…解せぬ。」


今夜の一言目は私の不機嫌オーラ満載の言葉で始まった。

以前にも増して私の傍に居ることが多くなったルキさん。
彼曰く“愛している”私と離れたくないらしい。
それは周りの女の子達にとって私がイケメン兄弟の彼を独り占めしている光景に
見えたのだろう。勿論激しい嫉妬の対象となったのだ。



そして彼がふと私から目を離したすきに彼女達に集団暴行にはおあつらえの体育館裏へと連れ込まれた。
そして今に至る。


数々の罵声を浴びせられながらも私は表情一つ動かせないでいた。
正直、昔からこういった類のものは慣れてしまっている。


元々コミュニケーションが苦手だったのでその態度が他人の逆鱗に触れることがしばしばあったのだ。只、前とは少し違うのが、この光景を彼が、ルキさんが見てしまったらまた悲しそうな顔をするのかなぁ等と考えてしまっていることだ。


以前自分を傷付けたとき、彼を泣かせてしまった。
今度もあの顔を見てしまうのはやはり罪悪感というものがある。



そんな事を考えながらも未だに罵声はやまず、
イライラしたであろう女の子達の1人が私を殴ろうと手を振り上げる。嗚呼、痛いのはあまり好きではないんだけどなぁと思いながら反射的に目をつぶってしまうが一向に痛みは降ってこない。代わりに振って来たのは相当怒っているであろう彼の声。




「随分と俺のモノを苛めてくれたみたいじゃないか。」


「ルキさん。」



ギリギリと女の子の腕を容赦なくひねり上げて
怒りを含めたその顔はますます険しくなっていく。



「殴ろうとしていたのか?花子を?この汚い手で?」



女の子の恐怖の悲鳴が響き渡る。
普段私に見せる穏やかで優しい瞳はそこにはなくまるで何処かの鬼のような鋭い目つきで彼女達を見下している。


颯爽と助けに来てくれた王子様には申し訳ないが正直そのお顔はとんでもなく怖いです。
王子様というより魔王だなこれは。あ、違った吸血鬼だった。



「今後、またこのような事をしてみろ。…殺してやる。」



低く、地を這うような声で彼が囁けば彼女達は声にならない声で叫び一目散にその場から逃げだしていった。
そして取り残された私とルキさんは暫く無言のままでいたが彼の大きく長い溜息と共にその静寂は打ち破られた。



「お前…こういう時は俺の名前を叫ぶなりして助けを呼ぶべきだろ。」


「ス…スイマセン…?」


「まぁいい…。帰るぞ、ホラ。」



差し出された手に素直に自分の手を預ける。
が、そこで気付いたのだ。自分が少し震えていることに。


「…怖かったか?」


「…みたいです。」



少し苦笑い。
怖いとか、もうとっくに消えている感情だと思ったに。彼は小さくため息を着いて何を思ったのか私をひょいと横抱きにしたのだ。




「えっと、ルキさん。降ろしていただけませんか?」



「その願いは聞き入れられないな。ホラ、震えている。」



「や、歩けるんで。お姫様抱っこなんて勘弁してくださいホント。」



心なしか話すスピードが速くなってしまった私をクツクツとおかしそうにみてそのまま歩き出した。


「ルキさん、ルキさん。ホント、もう…あの、」



「ああ、お前は軽いな。ちゃんと食事はしているのか?」



「いえ、食にはあまり興味がなく…ではなくて降ろしてください。」



「それはいけない。このまま俺の家に連れ帰るから食事を作ろう。」



「は?え、いや…話を、きい、て…」




これはまずい。
このイケメン、とんでもなく楽しそうだ。
周りの生徒、教師達が驚きの目で私達を見ている。やめてくれ、今なら羞恥で死んでもおかしくない。




「あの、恥ずかしい、ので、ホント…おろし…」



「駄目だ。これは罰なのだから。」



「罰、ですか…?」



「そうだ、俺を呼ばなかった、頼らなかった罰だ。」





“こういう時は俺に頼れと言っただろう”




そう囁くと同時に交わされた口付けに流石に思考回路がショートした。
ここは校門前だ、もう一度言う校門前なのだ。
大勢の生徒達の目の前でこの人は…。
公開処刑もいいところである。




「頼る、頼ります、から…」



「フフ…なら、今日はこのまま俺に抱かれていろ。」




何なのだこのイケメンは。
意味が分からい。
だがもっと意味が分からいのは、こんなことをされてまるで乙女のように顔を真っ赤にして恥じらう自分自身だった。



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