4:いっそ君が彼女だね


「…まさにアレですね。ルキ’Sキッチン。」


「な…っ」


宣言通りルキさんは私をあの恥ずかしい抱き方のまま彼の家へ連れて来たのだ。
豪華すぎる外観に若干引いたは内緒の話である。


そのあと彼はすぐに私を降ろし、キッチンへと向かったのでやることがない私はその後を着いていったのだが慣れた手つきで黒いエプロンを装着して冷蔵庫からテキパキと材料を出す様は
正に主夫。格好良くて、優しくて、料理もできるとか何なんだ、超人か何かなのだろうか彼は。



そう思い、ふと皮肉めいた先程の言葉を漏らせば少し赤くなって言葉に詰まる彼。
…可愛いも実装済みですか、そうですか。


そんな事を考えていると複数の足音が聞こえて来た。




「おーいルキィ。今日の晩飯なんだぁ?」


「俺はぁやっぱりボンゴレビアンコちゃんがいいな☆」


「俺は…辛いモノが…いいな。」



「………あ。」




そう言えば、ここは無神家でした。と言う事はいらっしゃるにきまっているじゃないか、イケメン4兄弟の残り3人。
3人は私をきょんと見て、同時に首を傾げる。




「………誰?」




最初に口を開いたのは包帯だらけの、確か名前はアズサさん…だったか。
不思議そうな顔をして私に近付いてくる。ああ、そんな綺麗な顔で覗き込まないで下さい緊張する。



「カワイイ…ね」



にっこり、そう微笑むものだからつられてへにゃりと笑うがどうしてかルキさんがいる方向の空気が冷えた気がした。



「えー!?どこがぁ?こんなブッサイク全然可愛くないでしょ!」



アズサさんと私の間に入り、大きく声を上げた金髪の美形さん。
コウさん、は有名なアイドルさんだ。
まぁ確かに私の容姿は宜しくないので、その言葉をそのまま受け取った。



「お目汚しすいません…」



「へ!?あ、やー…その、そ、そこまでブサイクでもないかなぁ〜…なんて」



今考えればこの美形集団にこんな醜い姿を晒してしまっている事実がとても重くのしかかり、申し訳ないと思い謝罪の言葉を口にすると
コウさんが少し慌てて先程の言葉を訂正してくれた。
なんて優しいのだろうか。




…アレ?まただ。またルキさんの周りの空気が冷えた。



「つーかコイツ、ルキの客人かぁ?珍しいな、女を連れ込むなんてよ。」


「!」


ニヤニヤしながら、私の上からそう言ったのはユーマさん。大きい…とんでもなく大きいです。それに加え、彼は迫力美人さんなので私は思わずビクリと体を揺らしてしまう。
するとバツが悪そうにあーだのうーだの言いながら頭を掻いてずっと目の前にしゃがんでくれた。



「あの…?」


「おら、これで怖くねぇだろ?」



ニカっと眩しい笑顔を向けてくれて、その大きな手でわしゃわしゃと私の頭を乱暴に撫でてくれる。 強い力にガクガク首が揺れるのを見たユーマさんは「悪ぃ」と慌てて手を引っ込めるがそれがなんだかおかしくて思わず声を出して笑ってしまった。



「大丈夫ですよ。…ふふ。」



だが微笑ましいシーンはこれで幕を閉じたのだ。先程から冷たい空気を纏った彼の、ルキさんの怒りの声色と共に。



「お前達…すぐ夕飯を作るから食卓でおとなしくしていろ。」



ぞくり。
その場にいる全員が顔を青くして固まった。
笑顔だ。とんでもなく美しい笑顔。ただし背後に真黒なオーラを纏って。


そして片手には包丁。これは言う事を聞かなければ間違いなくやられるパターンだ。
ルキさんを除いた無神三兄弟は私を担ぎ上げると一目散にキッチンから逃げ出したのである。





「…ルキ、とっても怖かった、ね。」


アズサさんがそう呟くとコウさんが盛大な溜息をついた。


「まさかルキ君がやきもちとかねー。ホント、キミってばどうやってルキ君を落としたのさぁ」


「私、ですか?」


つんつんと、オモチャで遊ぶように私の頬をつつきながらそうこぼすコウさんの言葉にハテナマークである。はて、落とす?私が、ルキさんを?


「まさか色仕掛けでも使ったんじゃねぇだろうな?」



「どうやったらそんな色気とか絞り出せるんですか。」



ユーマさんの台詞に思わず苦笑。
こんなお色気皆無な私が色仕掛けなんて。



ガチャン!



そんな会話を続けているとそれぞれの目の前に乱暴に差し出されたおいしそうなパスタ。
見上げるととっても不機嫌なルキさん。



「食べろ。」



「ルキさん…?」




彼のご機嫌ななめな理由が気になったが、他の三人は既においしそうにパスタを口に運んでいたので私もそのままパスタを口に運ぶ。



「ん…おいしい。」


「…そうか。」




私が素直な感想を述べるとルキさんは先程の不機嫌オーラをどこかへやって満足そうに微笑んだ。その顔がとても綺麗で思わず見とれていたがふと私の中に一つの疑問が降って来た。



「さっきまで、どうして不機嫌だったんですか?」


「お前は…わざとそんな事をいっているのか?」




呆れた、と言わんばかりの溜息。
あれ、おかしな事でも言っただろうか。私が固まっていると、もう一度溜息をついてルキさんはまくしたてる。


「アズサに可愛いと言われて微笑んだ。
コウに優しくされて嬉しそうだった。
ユーマに頭を撫でられて俺には見せない顔で笑った。」



「え」



「兄弟相手に嫉妬させるな。全く…」



嫉妬…コウさんが言う通り彼は嫉妬していたと?こんな私の為に嫉妬だなんて、何だろうか今目の前にいるのは確実に格好良い部類に分類されるはずのイケメンさんなのにそのすねた表情が可愛くて可愛くて仕方がない。


私が食い入るように彼を見つめていたので、ルキさんはふいとそっぽを向いてボソリと呟いた。



「お前は、俺を困らせたいとしか思えないな。」




…格好良くて?優しくて?料理もできて?時折見せるやきもちが可愛くて?
ぐるぐるぐる頭の中でそんな単語を並べながら
もくもくと彼お手製のパスタを口に頬張る。
どこか温かい味がしたのは彼の愛情でも籠っているからなのか。



「ルキさんて…」



ふと並べた単語を整理して浮かんだ言葉を口にする。その場にいた私以外の4人がパスタを吹き出し、大惨事になり顔を真っ赤にしたルキさんにこっぴどく怒られたのはまた別の話。



(「ルキさんて…完璧可愛い嫁ですね。」)



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