9:愛される幸せ


「そう言えば」



「…ん、どうした花子。」



「吸血鬼の皆様は吸血の際、性的興奮を覚えるのでしょうか。」



「ぶふぉ!」



ルキさんは私の純粋な疑問を聞いて盛大に飲んでいたコーヒーを噴いた。
…おかしな事を言ったのだろうか。


「以前、逆巻さんに血を吸われた時黙って吸わせているとリアクションがないとか言われましてですね…アレですか、セクシーボイスの一つでも使った方が良かったのでしょうか。」



あはんとか、うふんとか。
そう言うとまたゲホゲホとむせてしまうルキさんを見て大丈夫ですか?と背中をさすってみた。



「お、お前な…。まぁ吸血は快楽も伴うというからその、なんだ…」



だんだん声が小さくなる彼の台詞に、ふーんと納得してしまう。まぁ確かに、逆巻さん達の吸血シーンをたまに目撃してしまう時があるのだが吸ってる方も吸われる方も気持ちよさそうな顔をしてたっけ。



「というかあまりあの時の事を思い出させるな。」



そっと、消えたはずの逆巻さんが噛んだ傷痕と、その直ぐそばにあった私が自身で付けた傷跡を撫でで悲しい顔をするルキさん。



ごめんなさい、そんな顔をさせたかったわけじゃないんです。



「でもおかしな話です。吸血鬼のルキさんが餌でもない人間をこうして傍に置くなんて。」



―そう、どうやら彼にとって私は餌ではないらしい。事実、馬鹿みたいに優しくしてくれるのに吸血行為は一切してこない。
すると彼は少し拗ねた様子で私を掴んで彼の膝の上に乗せた。


「ルキさん?」


「仕方ないだろう。好きな者を傍に置きたいと思うのは当然の事だ。」


本当はこのまま血を吸ってお前を快楽へ堕としてやりたいのだがな
と首筋に顔を埋め舌を這わす。


「んー…。」


気の抜けた声を漏らして一思案。
私は未だに顔を埋めているルキさんに向かって告げた。



「別にいいですよ。吸っても。こんな血でよければ、ですけど。」


「…そうだな。お前が俺を好きになったらその時は遠慮なく頂くとしよう。」




そう言ったルキさんは何だかとても悲しげで、
ちょっと見ていられなくてその背中に手を回しぎゅっと抱き締めた。


「片想いというのは辛いものだな。花子、早く俺のところまで堕ちてこい。」


「イケメンさんに向かってダイブするのも悪くないですね…。」


なんだソレは、と彼がおかしそうに笑うから
私もつられてあははと笑った。嗚呼、なんだかこうして笑うのは久しぶりな気がするなぁ。
何だったかなぁこういうの。


ずっと忘れていたようなその感覚に少し戸惑いながらも私はひとしきり笑って、彼を抱きしめた腕に少し力を込めて呟いた。


「ルキさーん…私、しあわせかも、です。」



するとふわりと大きな腕が私を抱き締め
小さく、優しい声で


「そうか」


と、彼が囁いたから。
私はそっと彼の腕の中で瞳を閉じたのだ。



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