51:愛の否定劇
彼の訳のわからない言葉に思わず目を見開いて固まってしまう。
どうして?どうしてそんな事を言うんですかルキさん…
「ルキさん…どういう事、ですか?」
「どうもこうもその言葉のままだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
先程までの優しいまなざしでも声でもない。
只々冷淡なその言葉に頭が追い付いて行かない。
その場から動けないでいれば彼はそっと私から離れて、普段からは想像できない位の冷たすぎる微笑みを作る。
「貴様をここまで直すのに苦労したぞ、花子。」
「ル、キ…さ…」
言っている意味が分からない。
いや、分かりたくない。
そんな…今まで私が心地いいと、愛おしと思っていたのは全てまやかしだったのだろうか。
「あのお方の子息であるアイツのお気に入りに俺が本気になるとでも?」
「や…、聞きたく、ない…」
耳を塞いでしまいたい。
けれど腕を持ち上げる事さえ出来ない位に私の心は酷く動揺してしまっている。
そんな…嘘ですよね?ルキさん。
今日はエイプリルフールじゃないんですよ…そんな笑えない嘘、言わないでください。
けれど無情にも冷たく、悲しい…酷い台詞は尚も続いてしまう。
「貴様がまともな思考をするようになるまでここまで時間がかかるとはな…まぁその血もかなり楽しませてもらったが。」
嘲笑いながら私を見下している彼は数秒前の穏やかで優しい彼ではなかった。
ああ、もしかして今のルキさんが本当の…?
今まで私は彼に本当に遊ばれていたのだろうか。
「さぁ花子、これで終いだ。逆巻シュウの所へ行くと良い。」
「る、き…さ」
声も出ない。身体は震えてしまう。
もしかしなくとも今までの行動は全てどこかおかしい私を更生させる為にしてきただけだったのですか…?
なんだかすべてが真っ暗になってしまった気がする。
けれど…けれど貴方はいつだって私に愛してるって言ってくれたのに…
最後の希望を抱いて涙を溜めてしまった瞳で彼を見上げるけれど
そんな私のささやかなソレさえも彼はあっけなく打ち砕いてしまう。
「俺が本気で貴様を愛しているとでも?貴様は知らないだろうが…俺は目的の為なら何だってするんだ。…正直、今回は骨が折れたがな。」
「…そう、ですか…。」
もう彼のその言葉で私の中は全て崩れ去ってしまって
何も考えることが出来なくなってしまった。
只、一刻も早くこの場から立ち去りたくてそのままフラフラと赴くままに足を進めてしまう。
嗚呼、私は結局は愛されていなかったのか…
「花子、」
「………シュウさん。」
何時間歩いたのだろうか。
そんなの分からなくて、気が付けば何処かの海辺に辿り着いていて…私の名前を呼ぶ声がしたので顔を上げればいつかの黄薔薇の彼。
嗚呼、そう言えばあの時ははしゃいで忘れていたけれど…私は黄色い薔薇だけは知っていたっけ。
確か花言葉は嫉妬、そして愛情の薄らぎ…恋に飽きた、だったな。
そもそも恋も愛も私とルキさんの間にはなかったみたいだけれど。
じっと私を見つめるシュウさんにもう笑顔を張り付ける気力もなくて
只々独り言の様に言葉を紡いでしまう。
「ルキさんが貴方の所へ行けと…」
「…そうか。」
「結局こうなるんですね…私は、」
「花子…」
「ルキさんも結局私なんてあいし、」
私の言葉は途中で彼のキスによって塞がれてしまった。
けれどそれは愛情を表すと言うよりかは本当に私のその後の言葉を言わせないような…言葉ごと飲み込むようなキスで…
「…シュウさん?」
「花子、別に泣いてもいい。喚いたっていい。けど…けれど」
私の両肩にふいに置かれた大きな手にぐっと力が籠る。
そして今までで一番真剣な表情なシュウさんがまっすぐ私の目を射抜く。
「ルキの愛情を否定する事だけは許さない」
…そんな、どうしてそんな事言うんですか。
実際…実際彼は私なんか愛してなかったんですよ?
なのに何でそんな事言うんですか…それじゃ、まるでルキさんが本当に私を愛してるみたいじゃないですか。
「わから、ない…わからないです…もうやだ…やだ…」
「花子…」
ボロボロと涙が零れ落ちてしまうけれど
もうその涙を困った微笑みで拭ってくれる人はもういない。
只々零れ落ちる涙と共に酷い言葉が出てきてしまいそうだ。
結局私は彼の目的のためにレンアイゴッコに巻き込まれていただけで
それを真に受けていた私は彼の思惑通り少しばかり笑うようになってしまって
一定基準を満たした私は元々傍に置かれるであろうシュウさんの元へと導かれてしまった。
嗚呼、なんて私は滑稽で
なんて彼は酷いひと…
ぎゅっと私を冷たい体が抱き締めるけれど全然暖かくない。
酷く冷たくて寒くて可能ならばこのまま凍死してしまいたい。
結局私ごときが愛されるなんて浅はかだったのだろうか…
辛くて、悲しくて…なんて苦しい。
私はこの感情が恐ろしくて誰かを愛する事や愛される事をしてこなかったのに
本当に学習しないこの頭を殴ってしまいたい。
「もう誰も愛さない…誰にも愛されない…辛い…こんなの、いやだ…」
以前にもこんな言葉を紡いだ気がする。
それはきっと私が全てを諦める直前に吐いたもので…
嗚呼、結局行きつく先は同じなのだろうかと考えれば酷く声を大にして泣き喚いてしまう。
どこかで…ううん、きっと愛されてるって思っていたから
彼の、ルキさんの言葉と表情は酷く私の心を抉り取ってしまって
胸が痛くて苦しくて、喚く声を抑えることが出来ない。
「花子……、ルキはお前を心底愛しているんだ。」
シュウさんのそんな言葉も理解できないまま
私は只々意識を失ってしまうまで彼の腕の中で涙を流し声を荒げてしまった。
愛おしいと思った夜空が
今は酷く悲しくて苦しくて…
もう私は二度と上を向いて生きることが出来ない位、酷く胸に傷を負ってしまった。
こんな事をするならばどうして“アイシテル”だなんて酷い言葉をかけたのですか…
ねぇ、わたしのだいすきな…ひと
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