43:シャイニングスター


「つか、疲れた…俺、過労死しちゃう…!!」



「おつ、お疲れ様です…コウさん…っ!」




ぐったり。
そんな表現がぴったりな具合にコウさんは私に覆いかぶさって長い溜息を吐いた。
どうやらここ数日芸能界でのお仕事が凄くハードだったようで
彼曰く本日が久々の休日らしい。




「ホント俺、吸血鬼でよかった…でなきゃ絶対過労死してる…っ!」



「仕方ないですよ…コウさん大人気ですから。」



「人気者でも休日は欲しいですっ!!」



うわんっ!とぎゅうぎゅう抱き締める腕に力を込めながら喚く彼は本当にお疲れのようで
その綺麗な唇から散々お仕事の愚痴が漏れてしまい私は思わず苦笑してしまう。



「………何。花子ちゃん俺の事調子乗ってるって思ってる?」



「いいえ、逆です。コウさんすごいなって思って。」



むすっとした表情で先程まで愚痴を言っていた唇を尖らせてこちらを見つめるコウさんは本当に格好良くて可愛い。


そんな彼に私の今の素直な気持ちを口にする。
だって何だかコウさんにはすべて見透かされているようで…隠し事をしても無駄なような気がするのだ。


「だってこんなに大変な思いをしててもファンの皆さんの前では輝いてて格好良くて…本当にお星さまみたいなんですもん。」



「花子ちゃん…」




確かにあんな華やかな場所ではきっと裏ではたくさん大変な思いをしているのだろう。
それに歌だってダンスだって沢山沢山練習しているに違いない。


でも普段のコウさんもテレビやステージ上のコウさんもそんなの全然微塵も見せない。
只々みんなの希望や勇気の星になってみんなの心を掴んでいる。



それって本当にすごいことだって思う。



「私も小さい頃アイドルになりたいなって思った事あったんですよ?みんなの人気者って素敵…って。だから、それをこうして現実にしてしまっているコウさん、すてきだなって」



それはまだ私が全てを諦めていなかった頃。
人並みに、女の子らしくアイドルになりたいって思ってた。
だから公園のベンチに立って歌ったり踊ったりしたりしていたっけ…



思い出して小さく笑っていたけれど、そんな私をじっと見つめていたコウさんの視線に気付いて
私の顔面は一気に血の気を引いてしまう。



「す、すいません…あの、そんな私の子供の夢とコウさんのお仕事、全然レベルが違うのにこんなお話…あのあの…えっと、」



「んもおおおおお!!!俺絶対花子ちゃんのヴァージンロード一緒に歩く!!ユーマ君とアズサ君に負けないっ!」



「は?」



慌てて謝罪していれば訳のわからない事を叫んでコウさんはスリスリと私の頬に擦り寄ってきてしまう。
わ、わぁ…すっごいすべすべである。



「なんだかそんな風に思ってくれてる人がいるって…いいよね。」



「コウさん?」



しみじみとそう言ってニッコリとコウさんが笑うから
どうやら彼のご機嫌を損ねてはいないようだと思って安堵の溜息を零した。



「俺、これからもっともっとも〜っとアイドル頑張れそう!皆の、花子ちゃんのお星さまになりたい!!」



そうやって嬉しそうに笑うコウさんは本当にキラキラ輝いていて
ああ、私って本当に素敵な人の傍に居るんだなって改めて思ってしまって
それが嬉しくて光栄で思わず自分も笑ってしまう。



「…うん、もう恐れ多いとか申し訳ないって思わなくなったんだね。花子ちゃん、偉いよ。」



「え?コウさん?」



「なんでもないよー?未来のおねえちゃんっ♪」




じっと私の目を見てそんな事を言うから首を傾げるけれど
コウさんは只々とっても嬉しそうに笑うだけで私の問いには答えてくれなかった。



「えっと…とりあえず、お疲れ様です。ルキさんや私の前だけでも力…抜いて下さいね?」



「んもう!やっぱり花子ちゃんはイケメンっ!!」




私の心からの言葉にコウさんはまたぎゅうぎゅうと私を抱き締めて
「花子ちゃんだいすきっ!」と大きな声で叫んで微笑んだ。





―それを聞いてしまったルキさんがお仕事で疲れ切っているコウさんを地下牢へと連れていってしまったのはまた別の話。



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