44:やさしい手


私が笑う
私が嗤う



“ねぇ自惚れてタノシイノ?”



酷く歪んだ顔で私を見下して私が嗤う。





「―っ!」



恐ろしい夢を見て目をあけた。
最近よくこんな夢を見る。
きっと…私が自分を大切にするって誓ったあの日からだ。



小さく息を吐いて少しだけ震える体をぎゅっと抱きしめた。
嗚呼、汗も少しだけかいてしまっている。
…うん、まだ私の心の奥底は納得していないのだろう。




―自信を蔑にする時間が長すぎた。




私が私を大切にすること…それが私を愛してくれている彼等にできる唯一の事。
そして私自身もそうしなければ何一つ前へ進めない。
頭も心も分かっているし理解している。
只奥底はまだ私を許しくれてはいない。




何度も何度も何度も
こうして夢の中でひたすら私を責めるのだ。



お前なんかが本当に自分勝手に生きていいと持っているのか?
お前なんかに本当に愛される価値があるのか?
お前なんかが誰かに何かを返すことが出来るのか?



酷く鳴り響く自身の罵声に耳を塞ぎたくなる。
けれど脳内に直接語りかける声にはそんなの無意味で
只々それでも気休め程度にぎゅっと目を閉じて両手で耳を塞げば
ふわりと優しくて冷たい手が私を包み込んでくれた。




「アズサ…さん?」



「花子…つらそう…くるしそう…平気、じゃぁ…ない、ね?」




彼の登場に驚いて両手を耳から外そうとしたけれど「そのままで」と言われてしまい
手で耳を塞いだまま、少し普段より聞き取りづらい彼の言葉に耳を傾ける。




「花子の、なか…の花子…も、いつか…ゆるして、くれる…」



優しく微笑みかけられてそんな台詞を言わないでくださいアズサさん。
どうして貴方はいつだってそんな風に奥底まで私を見てくれるんですか?
いつもさりげないけれど、彼はよく私を見てくれている。
洞察力と言うのだろうか…そういうの、アズサさんは意外に鋭い。



「ねぇ花子…花子が俺にいじわるをしてくれたみたいに…俺も君にいじわる…する、ね?」



「あず、さ…さ…?」



ふわふわと優しく頭を撫でてくれるその手にじわりと胸が痛くなる。
嗚呼、大丈夫だ…
私にはルキさんだけじゃない。
沢山…沢山大事に思ってくれてる人がいる。



「私、が…私を許してくれないんです…」



「うん…」



「私なんかがって…まだ、言うんです…」



「うん…」



「でも、私…わたし、は…」



「花子…」



自身の心のうちを明かしていれば不意にちぐはぐな心と心に悲しくなって
涙を零せばちゅっとアズサさんが唇で掬ってくれた。
落ちてしまわないようにと、零れてしまわないようにと優しく…優しく。



「だいじょうぶ…花子、には…俺達がいる…から、花子のなかの花子が…みとめてくれるまで…ささえてあげる…」



ニッコリと微笑んだアズサさんが凄く優しくて
何だか本当にいいのだろうかなんて考える暇なんかなくてそのまま彼に抱き付いて声をあげて泣いてしまった。




「ふふ…花子、がんばろう…ね」



「はい…がんばり、ます」




ふたりでいつの日かのように微笑み合ってそう誓ってまた彼にぎゅっと抱き締められた。
そしてそんな細い彼の腕の中、私はある人に会いたくなったのだ。




少しばかり以前の私に似ているあの人に…



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