45:はじめての


全く同じと言うわけではない。
ただ、あの時はそんな事を思う余裕がなかったけれど
今は少し、彼は以前の私に似ていると思う。




「んふっ♪ルキのビッチちゃんが何か用かな?こんな所シュウに見つかったら今度こそ殺されちゃうんだけど、僕。」



「しゅ、シュウさん本当に何したんですか…」



「………思い出したくないかな?」




彼のそんな言葉に苦笑していれば逸らされた翡翠色の瞳。
けれど私はじっと見つめる目を逸らすことはない。
ここは音楽室。
彼と…ライトさんと初めて対面した場所だ。



相変わらず悲しい旋律で音楽を奏でていた彼の前に立てば
その綺麗な指を止めて私の前までやってきてくれた。



「で?ホントに何の用?キミだって馬鹿じゃないんだから僕の前に一人でやってきて無事で済むだなんて思ってないよね?」



「あ、やっぱり似てます。」



「は?」



ニッコリ。
彼が私に向かって微笑んで、私の中の考えは確信に変わって
考えをそのまま口にしたらライトさんは笑顔のままピタリと動きを止めた。



「似てるんですね、ライトさん。」



「何が?ちょーっと言ってる意味がわかんないなぁ…んふっ」



「それですそれ」




彼の笑顔に問答無用でそう言えばくたりと首を傾げられてしまった。
似てるのだ。少しだけど、ライトさんのその笑顔。
…以前の私と。



「ライトさんはどうしてそんな張り付いた笑顔をされるのですか?」



「…………はぁ?」



私の言葉に易々とその張り付いた、嘘くさい笑顔は消え去って
酷く顔を歪めてしまう。
怖いけれど、多分この表情の方が本当のライトさんなのではないだろうか。



「ねぇ花子ちゃん…何訳の分かんない事言ってんの?殺されたいの?」


「いいえ、どちらかと言えば…」



どうすれば一番いいのかなんて全然分からなかったけれど
以前の私がルキさん達にされて一番うれしかったことを彼にも実行してみる。
なんだか私以外にもこんな笑い方をする人がいるのって少し、悲しい気がするんだ。



「ねぇ、何で僕の頭撫でてんの?…僕、この前君に酷いことしたんだよ?忘れたの?」


「羨ましかったんですよね…ごめんなさい、分からなくて。」


「…いい加減にしてくれないと本当に殺すよ?」



彼の怖い言葉に怯むことはなく私は只々彼の頭を撫で続ける。
本当に嫌ならこの手を千切ればいいのにそうしないのはきっとライトさんも誰かにこうされたかったからだろう。


私も以前こんな笑い方だった。傍から見れば普通の笑顔。だけどそれは張り付けたもので
その下では酷く歪んだ顔を隠してた。



「きっとライトさんを愛してくれるひと、みつかります。私にだって見つかったんだから。」



「何人間が偉そうな事言っちゃってくれるの?」


いつの間にか彼の代名詞の語尾は消えていて酷く恐ろしい顔でそんな事。
けれどこれは事実だ。
誰も自分を分かってくれないって拗ねてばかりで他を壊し続けてるだけじゃ…遠ざけ続けてるだけじゃ誰も救われない。



それを私は身をもって体験している。



「…そもそも僕なんか誰も愛さないよ。まぁ体だけなら別だけどね。」


「ふふ…やっぱり似てるなぁ。」



少しばかりの彼の本音に思わず笑みがこぼれる。
ホラ、こうして冷静に彼を見れば本当に私と彼は似ていないけれど似ている。



…きっとあの時、屋上でルキさんが私に手を差し伸ばさなければ私はライトさんみたいになってた。




「ねぇライトさん、私とお友達になってくれませんか?」



「はぁ!?だ、だから僕はキミに酷い事…っ」



「だって私達、似てません?」



私の予想外の言葉に素っ頓狂な声をあげた彼にまた微笑めば
彼は暫くじっと私の目を見つめて降参だっていうように溜息を吐いて
頭に置いていた私の手をぎゅっと握った。



きっと彼なら私の言いたいことも分かってくれるはず。




「花子ちゃん…ぼく、女の子の友達ってはじめてかも。」



「女友達第一号ですね。光栄です。」



「ちがうでしょー!?友達なんだから敬語禁止!!」



少し顔を赤らめながらぷんすこ怒ってしまったライトさん。
ああ、よかった…彼もこうして心からの表現が出来て…本当に良かった。




全く一緒って訳ではない。
少し似ているから…彼の事、放っておけなかった。



けれど私はもうルキさんのモノだからせめて…
せめてお友達としてライトさんの心をちょっとでも軽くできたらなって思ったんだ。


傷を舐め合うとかそんなんじゃなくて…ただ、本当に純粋に彼にもちゃんと笑って欲しいって思った。




「ホラホラ花子ちゃん!もう一回!」



「こ、こうえい…だ、よ?」



せかすようにそう言われてカタコトで砕けた口調にしてみれば満足そうに彼は笑う。
あ、何だか私も嬉しいかもしれない。


ルキさんは恋人だし、コウさん達は友達と言うよりかは家族やお兄さんみたいだから…
なんだかこういう…お友達って…うん、嬉しいかも。



するとそれが表情に出ていたのかライトさんはニマニマと私を見つめてまた笑う。



「やーっぱり僕達似てるかも。んふっ♪ヨロシク、大親友ちゃんっ」



「い、いきなり大親友認定!?」



「だぁって僕女友達…はじめてだからさっ」




月が綺麗な夜空の下、私に出来た久々のお友達は
私にとんでもなく酷い事をした変態系ドS吸血鬼だった。



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