46:資格


「そう言えば花子、最近少し血の味が変わってきているようだが…」



「そうなんですか?」



いつも通りルキさんに後ろから抱き締められていれば彼がそんな事を言いだした。
私には血の味って言うのがどういうものか分からないから彼の言葉をうのみにするしかないのだが…
けれど以前血の味が変わる方法を聞いてしまっている私の顔から一気に血の気が引いてしまう。



「え、あ、あのあの…も、もしかしてわた、私…し、知らない間に…!?」



「ああ、違う。根本的な味は変わっていなんだ。安心しろ。」




私が何を考えているのか察してくれたルキさんは自身の言葉が足りなかったと謝罪してくれながら優しく頭を撫でてくれた。


その感触が気持ちよくて思わず目を細めるが、根本的な味が変わっていないと言う事は…ん?どういう事だろうか。


頭だけ彼の方へと振り返ってじっと見つめていれば少し困ったようにルキさんは笑う。



「何だか…そうだな、優しくなった。」


「やさしく…?」


「ああ、きっとお前がこれまで努力してきたからだろうな。」



絡められる綺麗な指先に熱を持っていかれながらもルキさんがとても嬉しそうに笑うから
私もそんな彼の笑顔が嬉しくて思わずつられて笑ってしまった。


私の血は本当に少しだけ変わっているらしいから、少しでも彼が飲みやすようになっているのならば嬉しい…


片手は指を絡めあっていて、もう片方で私を抱き締めていた腕にぐっと力が籠る。
それはどうしてか私を離さないような…何処か切実な抱き締め方。



「ルキさん?」


「花子はもう以前とは違うな。少しずつだが自身の為に生きている。悲しい考えもしなくなって来ている…」


「ルキさん…、一体どうし、」


「俺は、」



ようやく彼の様子が少しおかしい事に気付いて
もぞもぞと彼の腕の中で動き、対面する形を取ればどうしてか彼は先程とは全く違った
とても悲しそうな笑顔だった。



「俺は…今のお前の傍に居る資格があるのだろうか。」



「ルキさん…なに、いって…、」



「……………何でもない。忘れてくれ。」



彼の笑顔がこれ以上聞いてくれるなと言っているようで
私はもう問い詰めることはしないで、けれどそのままと言うのも酷く胸が痛かったから
自身の思うまま彼にぎゅっと縋り付いた。
そうすればいつもの様に彼が笑って抱き締め返してくれると思っていたから。



「花子、あの眼鏡…大切にさせてもらう。」



「…また、ユーマさんに壊されたら一緒に買いに行きましょうね?………一緒に。」



「ああ、そう…だな」



何だか彼の言葉に酷く焦燥感を覚えてしまって縋り付く手に力を込めた。
チラリと見えたのは二代目の彼の眼鏡。
大丈夫、きっとまた壊れてもまたルキさんがユーマさんを怒ってお説教して
そして私と一緒に買いに行くんだ。
………大丈夫。


「あの、また…贈り物、したいです。」


「ああ…楽しみに、待っている。花子…愛してる。」



私の言葉に小さく呟いた彼は遠慮がちにそのまま私の首筋に牙を付き立てた。
どうしてこんなに不安なんだろう…
ルキさんはいつも通り私を抱き締めて離さないのに。
ルキさんはいつも通り私に愛してると言ってくれるのに。



どうして…




どうして私を抱き締める腕がそんなに酷く弱弱しいんですか?



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