47:友情デート


「へぇ…それはまた…ルキも思いつめちゃってるねぇ。」


「そうなんです…じゃなかった。そうなんだ、よ…」


「いいよいいよ。花子ちゃん敬語クセみたいだしいつもどおりで、んふっ♪」




私の言葉遣いに苦笑したライトさんが優しく頭を撫でてくれた。
以前の関係からまさかこんなことになるだなんて思ってもみなかったが。
現在二人で今流行中らしい可愛らしいカフェでお茶会中だ。



昨日のルキさんの様子が気になって、コウさん達に相談するわけにもいかず
こうしてお友達であるライトさんに相談すれば彼は普段とは違った、どこか嬉しそうな顔でニコニコ笑う。



「まっ、ルキの気持ちもちょっとは分かるかなぁ?」



「分かるんですか?」



「うん、だって花子ちゃんは前と比べてとっても素敵になっちゃったからさ。んふっ♪」



彼の言っている意味が全然分からなくて首を傾げる。
別に以前と比べて素敵になったって全然思わない。
だって外見だって、そりゃコウさんにプロデュースして頂いて少しはマシにはなったけれど
そんなに劇的という訳ではないし、どちらかと言えば自分の為に生きるって決意してから私はどんどん図々しくなっていると思う。



けれどそれでも今ルキさんがどうしてかは分からないけれど何かを悩んでらっしゃるのは確かで…


「ライトさん…やっぱり私、前のままの方が良かったんでしょうか?」


以前のどうでもいいとか恐れ多いとか、私なんてって思っていれば
ルキさんはあんな悲しそうな顔をしなかったのだろうか…
だったら…だったら私はすぐにでも戻りたい。
確かに今の方が私は幸せだし毎日が本当に楽しいけれど、



大好きなひとがあんな顔するくないなら私は…



ぎゅっと手を強く握っていればふわりと冷たい手が重なった。
ふと見上げればゆっくりと首を横に振るライトさん。



「きっと変わらなきゃいけないのはルキだね。…花子ちゃんはこのままじゃないとダァメ。」



「ライトさん…」



「まっいいや!きっとそのうちシュウが何とかしてくれるよっ!」



「え、え?なんでシュウさ…ってわっ!」



彼の意外過ぎる言葉に疑問符を抱いた瞬間ぐいっと腕を引っ張られてその可愛いお店を後にする。
あ、そ、そうだった…今日は初のお友達デートの日だった。



どうやらライトさんはお友達と普通に遊ぶって事をした事が無かったらしく
初めて出来た女友達である私といろんなところにお出かけしたかったらしい。


勿論この事をルキさんに伝えてはいるけれど、相手がライトさんだけあって
私のバッグの中には催涙スプレーやスタンガン、防犯ベルなど様々な「変態吸血鬼撃退グッズ」を詰め込まれてしまっている。


…正直すっごくバック重い。



そして出かける前もコウさんには何かあったら絶対に携帯へ電話するようにと念を押されたし
ユーマさんには数日前から護身術を教わってしまった。
そしてアズサさんは私が出かける前に「ルキ以外との弟と妹は認めない」と、とんでもない爆弾発言をされてしまっていた。


「………信頼って大事だな。」



「ん?なぁに花子ちゃん、何か言った?」



「いっいえ!何でもないです!!」


私の小さな言葉に振り返ったライトさんはきょとんと首を傾げてしまったけれど
慌てて話を誤魔化して彼について行く。
なんだか本当にライトさん嬉しそう。




それから本当にたくさん遊んだ。
ゲームセンターへ行ってUFOキャッチャーで大苦戦したり
カラオケではどんな歌でも厭らしくなってしまうライトさんに大笑いしてしまったり
水族館では魚が嫌いなくせにどうして来てしまったのか怯えきって私の背中から離れないライトさんは女の子みたいだった。



「っはー!本当に楽しい!!お友達って最高だね!」



「…でもライトさんはその、普段他の女性とも沢山デートしてるのでは?」



「あれはホラ、最終的に行きつくところが決まってるから全然楽しくないんだよね」



そんな発言に私は少しズキリと胸が痛んだ。
そっか…いままでライトさんとデートって言うのはその…そう言う事を目当てにしてきた人たちばかりだったんだ。
だから彼は心の底から楽しむって事が出来なかったのか…



なんだかそんなの悲しいって思ってしまって俯いていれば
ひょっこりとライトさんが私の顔を覗き込んでにっこりと笑ってくれる。



「だからさ、今日ホントに…ほんとーっに楽しかった!花子ちゃん、ありがとう!!」



「ら、ライトさん…」



彼の心からであろうその笑顔にほわりと胸が暖かくなって
じわっと涙を浮かべていればずいっと差し出された可愛い可愛い紙袋。
え、何?どうしたんだろう…急な事に頭がついて行かず固まっていれば
彼はとっても無邪気に微笑むのだ。



「だからこれは今日のお礼!この可愛い下着付けてルキに血の味変えてもらいなよっ!んふっ♪」



「………ちょっとまって、ちょっとまってライトさん。あの意味が分かりませんしそのサイズとか何処で調べたんですかね。そしてなんでいきなり友人で下着プレゼントとかもうツッコミどころしかないのですが…!」



私の少し早くなった口調にライトさんは悪戯が成功したみたいに意地悪に笑ってしまう。
と、とりあえず…とりあえず私の下着のサイズをどこで手に入れたのかだけは聞きたい…!



「いやぁ僕位になるとパッと見た瞬間女の子のサイズわかっちゃうよねぇ。えっと花子ちゃんのサイズはねー上から…」



「わぁぁぁぁぁあ!わかった!分かりました!!これはありがたく頂きます!!頂きますから黙ってください!もう!」



ライトさんの爆弾発言を大きな声で遮ってその可愛い紙袋をひったくれば
満足そうに嬉しそうにぎゅうぎゅうとライトさんが私に抱き付いてきた瞬間何故か爆音で私のバッグから防犯ブザーの音が鳴り響いてしまった。
え、え…こ、これもしかしなくても特殊な防犯ブザー…?


びっくりして固まっていればぐいっと私の身体は後ろへと倒れてしまう。
すっぽりと収まってしまえば覚えのありすぎる香りに慣れずにどきりと胸が高鳴る。



「…オイ逆巻の変態。花子になにをした。」


「べっつにー。ただちょーっと友情のハグしただけだよ。んもう、ルキは花子ちゃんのおかあさんなの?」



私の彼…ルキさんの突然の登場にライトさんは可愛らしく唇を尖らせてぶーぶーと文句を垂れる。
過保護すぎとか、お母さん過ぎて男に見てもらえないとか、沢山の暴言の数々にルキさんの空気がどんどん冷えていく。



「まぁいっか。花子ちゃん、それ…早速今夜試してね?そして次会ったときには…んふふふふふふ」



「ええっと、ライトさんのお望みどおりにはなりませんよ…きっと」



「もしこれ着て何もないなら僕はルキを不能とみなして蹴り上げるよ。じゃあね♪」



可愛い下着が入った紙袋をちょんとつついて悪い笑顔の彼に苦笑していれば
ライトさんはちょっとだけむすっとして意味の分からない発言をして消えてしまった。




「……………蹴り上げるって、どこを?」



「……………とてつもなく嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか。」




私達の静かな独り言は夜の闇へと消えていった。
ルキさん、あの…どこをライトさんに蹴り上げられるのですか?



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