92:理解者と理解者


やってしまった……




やってしまった…!!!!!





「いっそ殺せ!!!!」



「……ま、人の考えは読めるけどデリカシーは欠けるって奴か。」



花子ちゃんが張り付いた笑顔で出て行ったあと思い切り目の前の机に自分の額をぶつけて猛反省。
馬鹿だ……俺本当に馬鹿!!
あんなタイミングで覚醒できるエム猫ちゃんの話しちゃったら花子ちゃんがどう思うかとか予想付いたじゃん!!
なのになんであの時俺ってば零しちゃったかなぁ!!!馬鹿なの!?馬鹿なの俺!!!!



張り付いた…所謂俺達芸能人でいう所の営業用の顔を花子ちゃんに張り付けられて
あの時俺はもはや顔面蒼白。
数秒前の俺をぼっこぼこにしてやりたい衝動に駆られてしまったけれどそれより花子ちゃんの心の中が酷くぐちゃぐちゃになっててそれどころではなかった。



しかし彼女が出て行ったあとその営業用の外ヅラを使われたショックが大きすぎて今俺は再起不能である。
花子ちゃんの一番の理解者気取っておきながら不用意な言葉で彼女にあんなの使わせちゃった死にたい。




俺ってホント、こういうとこ駄目だよねぇ。




「っていうかシュウ君もシュウ君だよ〜…なんですぐフォローしてくんなかったのさ。花子ちゃん出てっちゃったじゃん」



「だるい眠いしんどい」



「…………」




さっきからぼやーっと俺の事見下ろしてるシュウ君をじとりと見上げて不満を漏らす。
いや、うん。俺が悪いのは分かってる……分かってるけどさぁ
花子ちゃんすっごくなんか色々もやもやしたままで出っちゃったよ?どうすんの?
独りで泣いちゃってたらどうするんだよ……




「ったく、お前らも花子を信じてないってやつ?」



「は?一体なに……ぶっ」




うとうととしながら呟いた彼の真意が掴めずじっとその瞳を見ようとしたら
シュウ君の大きな手が俺の顔面を塞いで真っ暗になって何も見えない。
少しイラつきながらもその手を振り払えばそこにあったのはちょっぴり意地悪でいて余裕めいて微笑んでるシュウ君の顔。




…………あれ、シュウ君が何を考えてるのか読めないや。




「こっからは花子以外進入禁止。」



「…………ナニソレ。腹立つなー。」



意地悪な笑みは更に深くなって正直男の俺が言うのもあれだけれどちょっと格好いい…
ちょっとだけ………ほんとちょっとだけ。




「シュウ君は花子ちゃんがこのままへこんで前みたいにもどっちゃうーとか思わない訳?」




「思わないな」



「最悪自分と別れて永遠を生きれる可能性のあるエム猫ちゃんとルキ君が一緒になった方がいいとか言い出すとかさー…」



「まぁそれは考えるかもだけど……それも頭の中だけだろ。」




じたじたと足を遊ばせながらそっと視線を下へと戻し、彼に自分の不安をぽつりぽつりとぶつけてしまう。
けれどシュウ君はどれも欠伸混じりに余裕めいた言葉でかわすだけ。




なんだよ……シュウ君は花子ちゃんの事、
心配じゃない訳?




「うわっ、痛っ!痛いって!!!あ、アイドルにこぶがこのまま残ったらどうしてくれんの!!」



ぶすっとした顔のまま項垂れていれば突然頭に激痛が走って何事かと視線を再度上げれば
シュウ君が俺の頭のこぶをぽんぽんと何度も何度も叩いてた。
いたい!何してんのシュウ君!!!痛すぎて涙でそうなんだけど!!!と言うかもう泣いてるけどね!!



涙目のままシュウ君を睨みあげるとやっぱり彼はすっごく意地悪な顔で「アイドルのくせにぶさいく」なんて言い出すものだから思わず顔面に青筋が浮かんでしまう。
いらっとしてシュウ君に掴みかかろうとしたけれど、瞬間
彼がすっっごく無邪気に笑ってしまうものだからそれも未遂へと終わってしまった。




「信じてやれば?お前達が愛して守って背中押してきた人間一人くらい」



「…………なにそれ。」




ちょっと前まで花子ちゃんへの罪悪感で嘆いてたくせになにその余裕の微笑は。
むかつく……俺だって、俺だって花子ちゃんの理解者なんだぞ。
なのになんでシュウ君ばっかりそんな余裕かましちゃってる訳?




「俺だって花子ちゃんの事分かってるもん」



「はいはい」



「ちょーっとシュウ君よりデリカシーないかもだけどさぁ…」



「自覚がある事は良い事だな」



「そこは否定して慰めろよ!!!」



机に突っ伏してシュウ君に対抗心を燃やしちゃうけれど
それらは全てうとうと半分夢の中のシュウ君にスルーされてしまう。
けど…うん、胸の内ではちょっとは認めちゃってはいるんだよねー……





俺は花子ちゃんを理解してあげて背中は押してあげれるけれど
シュウ君のように掬い上げる事は出来ない。






「…………悔しい」



「そうでもないだろ。後俺は別にまだ花子を諦めた訳じゃないから」



「いやそこは流石に諦めたら?もう花子ちゃんの中で完全にお兄ちゃんじゃんシュウ君」




ぽつりと漏らしたものに返ってきた彼の言葉の真意さえ読めず
更に悔しさが募るけれど………




まぁ、今の俺に出来る事って
シュウ君の様に信じて待ってあげることかもしれない。





大丈夫、花子ちゃんは
きっとここに戻ってきてくれる。




そうだ、彼女は約束を破るような
そんな不誠実な子ではないはずだ。



戻る


ALICE+