95:寄り道


「嗚呼、花子………教室に戻る前に少し寄り道をしたいんだが」



「?は、はい…」




互いの想いを伝え合って彼の腕の中で少し、泣いて…
気持がようやく落ち着いたころにコウさんとシュウさんを置いてきてしまった事を伝えれば
ルキさんは小さく笑って一緒についてきてくれると言ったけれど、教室へ向かう途中ルキさんが窓の外に何かを見つけたようでピタリと足を止めた。
そしてそう紡がれたその言葉に私は首を傾げるも思わず頷いた。




「嗚呼、ほら………あれだ。お前が逆巻の輩といい思い出がないからと警戒してしまったからな………謝りたいんだ。」



「あ、」



どうして彼が突然そんな事を言い出したのか分からず頭に疑問符を浮かべていれば
それを見たルキさんが小さく笑って窓の外の一点を指さしたのでじっとそちらを見てみればふわふわの白い髪の毛の小森さん曰くツンデレさん。








「スバルさん」



「!」



何処へ行く当てもなさそうな彼を見失わないようにと少し駆け足で彼の元へ向かい名を呼べばどうしてかビクリと大げさに体が揺れてしまったので首を傾げる。
どうしたんだろうか……異種族のルキさんと一緒にいる私はいつの間にかそんなに彼に嫌われてしまっていただろうか。
そう考えると少しばかり寂しくなってしまったが、彼は数秒固まった後どうしてか恐る恐るコチラを振り向いたのでますます私の中の疑問符が大きなものへとなってしまう。
あれ、これ……嫌われていると言うか怯えられている気が……



「逆巻スバル」



「チッ………んだよ、お、俺は…俺は謝んねぇからな!!!」





ルキさんの呼びかけに酷く警戒したスバルさんの口から出た言葉に思わず吹き出してしまいそうになる。
嗚呼、そう言えばシュウさんが言っていたっけ。
スバルさんは何もしていないのにルキさんが警戒して私達にあんなことを言ってしまったって……
もしかしてスバルさんは私達が彼を怒りに来たのだと思ったのだろうか。



「逆巻スバル…………すまない」



「は?」



そんな彼の様子を伺っていればルキさんも小さく笑ってひとつ、そのまま静かに頭を下げた。
ルキさんのその行動に頭がついて行っていないであろうスバルさんはどうして彼が頭を下げているのか分からず眉間にしわを寄せてしまう。
けれどルキさんが頭を上げる事はなく、私もそんな彼の隣でじっとスバルさんを見つめるだけだ。




「花子は、お前の兄弟といい思い出がない……何かしらと心を抉られたり、他も…な。だから何もしていないお前にも警戒してしまった。……すまない」



「あ、は……や、その……おう。つか花子って……」




ルキさんの言葉に色々な思い出が蘇る。
アヤトさんに無理矢理血を吸われたり、ライトさんに酷く心を抉られたり……
でも、今はそれも……いい思い出、とまではいかないけれどそれがあったから今の私はある訳で…。
けれどそれはルキさんが彼らを……逆巻の皆さんを私に近付けようとはしない大きな理由にもなっていて。



静かに色々な想いを出を巡らせていればスバルさんの口からルキさんの言葉を復唱して紡がれる私の名前。
嗚呼、そう言えば私はまだ彼に名乗ってもいなかった。



「スバルさん、あのわたし……」



「こいつの名前は花子。俺の最愛だ。逆巻スバル、お前の言葉で色々考えたが俺は花子を離さないと決めた。」



慌てて名乗ろうと一歩前に足を踏み出せばそれはぐいっとルキさんに肩を引かれ再度後ろへと下がりそのまま彼の腕の中に体が収まってしまう。
そして宣言されたその言葉に私の頬はぼふんと熱を帯びてしまった。
さっき、互いの気持ちを確認し合うよりも、こうして誰かにその事を言われてしまうとより一層恥ずかしさが増すと言うもだ。



「ソイツ、すぐ死ぬぞ?」



「ああ、構わない。俺は花子を最期まで愛する。………俺がそうしたいんだ。」



「…………そーかよ。」




鋭い、試すような視線がルキさんを射貫くけれど彼は全く揺るがないと言ったように
真っすぐ見つめ返し「自身がそうしたいから」と言ってくれる。
嗚呼、その言葉……なによりも嬉しいかもしれない。
スバルさんはそんなルキさんに対して何か言いたそうにしていたけれど、ぐっと言葉を飲みこみ、短い相槌だけを打って視線をそらしてしまうけれど
その時、ルキさんがそっと私をスバルさんの前へと背中を押して促した。




「花子は俺の最愛と同時に人間だ。………だから友人が必要だろう。逆巻スバル。その役目…頼まれてはくれないか?」



「は?いやでも俺は………」



「嗚呼、勿論何か花子に酷い事をしてみろ、調教どころでは済まさないがな。」



「おいお前どんだけコイツに過保護なんだよつーかそんな事しねぇっつーの!!」




あの日……廊下であったあの日、スバルさんが私に伝えようとしたかったであろう言葉をルキさんが柔らかな口調で代弁すると
スバルさんは困惑したような表情を浮かべるけど直後の少し早い口調で淡々と釘を刺してしまうルキさんにその顔色はすぐさま真顔に戻ってしまって私は赤面だ。
ううん、やはりルキさんの過保護は少々行き過ぎている気がしなくもない。





「あー………っと、その、よう。詳しくはウェブで女。」



「ふふっ、宜しくお願いします。スバルさん……花子です。」




スバルさんの目の前まで歩み寄れば少しバツの悪そうな表情でチラリとコチラを見てまだ私の名前を呼んではくれない。
嗚呼、本当にスバルさんは小森さんの言う様にツンデレと言う奴だ。
小さく笑って再度自ら名乗れば小さく舌打ちをしてチラリとしか見てくれなかった顔を漸くこちらへ向けてギロリと睨まれてしまう。




「わーったよ!宜しくな花子!!これでいいんだろ!!!!?」



「はい、宜しくお願いします。二人目の友達…ですね。あ、ライトさんは親友だった」



「あ?おいちょっと待てあんだけ過保護なルキがついといて何でよりにもよってライトが親友なんだ頭おかしくねぇか?」



「俺だって初めは大反対したが気が付いたらこの有様だ。逆巻スバル…逆巻ライトが何か花子にやらかしたら殴ってくれ」




漸く名前を呼んでくれた彼に二人目の友人だと喜んでいれば
一人目の友人……もとい親友の名を出した瞬間スバルさんは顔面蒼白でそうなった経緯を問いただしてくるし
後ろでとんでもなく長い溜息を付きながら私の親友を未だに警戒しているルキさんに苦笑しか起きない。
ううん、ライトさんってそんなにひどい人ではない……と言うか、最近は寧ろ


未だに信頼度がとても低いライトさんの事を考えて笑っていれば
スバルさんがじっと私の目を見つめていたことに気付いて思わず首を傾げてしまう。
どうしたのだろう……私の目が何かおかしいのだろうか?




彼の真意がよくわからず只々固まっていればぽつり、
スバルさんが小さな言葉を零して笑った。




「あんな濁ってたのがこんなにも透明になるもんなんだな」



「え?」



「いや、何でもねぇ………ウェブで女…花子はウゼェ程ルキに愛されちまってんだなって思っただけだ」




彼の言葉の意味全ては分からなかったが後半の言葉に少しくすぐったさを感じて静かに笑ってしまう。
嗚呼、よく分からないけれど…どうやら今の私の姿は他の人から見てみても彼に愛されているとわかってしまうようだ。




「つーかよ。花子マジでいいのか?あんなクソ過保護野郎に一生縛られるとか……すげぇウザそうじゃねぇ?」



「え、いや…私も」



「おい聞こえてるぞ逆巻スバル」



「うげ…地獄耳かよ。もうあんなの彼氏っつーより姑だろ。」




笑い続けていればこっそりとスバルさんが耳打ちしてきたその言葉に思わず「自身もそう望んでいる」と言いたかったけれど
その言葉の前に後ろから棘のありすぎる言葉がかぶさってきてスバルさんはしかめっ面、そして私は苦笑である。



本当に、ルキさんの私への過剰なまでの過保護はいつまでも変わらない。
けれど……うん、それが酷く心地よくて愛しいと感じてしまうのは
私が誰より彼の愛情に貧欲からかもしれない。



そしてそんな私をどこまでも包み込んでくれる
ルキさんが好きで好きで仕方がないんだ





「いえ、ルキさんは私の最愛ですよ。」




ぽつり、自然と出てきたその言葉に
自身で静かに笑えば、どうしてかスバルさんはそんな私を見ておかしそうに微笑んだ





「今の花子の顔、ルキが見たらどうなっちまうんだろうな」と
そんなよくわからない言葉を落として…






(「おい逆巻スバル、花子は一体どんな顔を」)



(「いや、今お前が見ちまったらこの場で花子を襲いそうだからやめとけ…ククッ」)




(「(私は今どんな顔をしてるんだろう…)」)



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