96:お帰りカウントダウン
「帰ってきません」
「そうだな……ふぁ」
「そうだな…じゃないよ!!!あああどうしよう花子ちゃぁぁぁん!」
シュウ君との教室で二人きりで数十分。
もう何だか何十年もここで待ってる気分なのは俺だけなの?俺だけかな!?
「どうしよう……やっぱり俺の所為で花子ちゃん、思いつめちゃってるのかな」
「俺はそれよりルキが花子を感極まって襲ってないかが心配」
「俺のお兄ちゃんは花子ちゃんに限定で凄くヘタレだからそんな事できないもん」
机に突っ伏しっぱなしで「もしかしたら」をぐるぐると考えてアイドルにあるまじきじめっとした空気を纏ってしまえば暢気すぎるシュウ君の言葉に間髪入れず反論。
そうなんだよねー……結構ルキ君って花子ちゃんに対して過保護すぎて未だに手を出せてないんだよね…ホント、弟的にはソッチも心配ですよ
ってそうじゃなくて…
「うーわー……花子ちゃーん…早く帰ってきてよ。俺、心配で死んじゃう…」
「無神家はどいつもこいつも花子に対して過保護すぎだな」
「煩いよ。俺達これでもマシな方なんだからね。ルキ君とかやばいよ。もはや病気」
ぐずぐずと喚き散らせば呆れたような言葉が返ってきちゃうけど
この程度で過保護とか笑わせる…俺達のお兄ちゃんの花子ちゃんへの過保護っぷりと言ったらそりゃぁもう酷すぎて酷すぎて。
さっきから結構な度合いで呆れられたり馬鹿にされたりしちゃって少しむっとしたからちらりと視線だけ上げてシュウ君の顔を睨もうとしたけれど…
「………自分だって人の事言えないじゃん」
「あんたらよりマシ」
「いやいや、シュウ君もルキ君といい勝負だからね?」
ちらりと視線を上げれば彼の目線は俺じゃなくて教室の扉一点集中。
なんだよ……やっぱり信じてはいるけれどちょっと心配って奴?
それともルキ君じゃなくて自分が言って慰めてやりたい訳?………ホント、長男ってどうしてこう花子ちゃんに対して過保護なんだろう。
「理解してるし、信じてるけど……心配だよね」
「嗚呼、そうだな…」
じっと二人で教室の扉を穏やかな瞳で見つめる。
だって聞こえて来るんだ。
三人分の足音と、ちょっぴりうるさすぎるどっかの末っ子と長男の言い争う声が…
「こういう、待つって事も…たまには必要なんだね。俺達には」
「けど頻繁は難しいかもな……特にあんたらは」
「いや、だからシュウ君もでしょ?」
さっきまで不安で心配でもやもやしてた気持ちがすっかり晴れて
二人でじっと三人のご帰還をいいこで待ってあげる。
嗚呼、うん……何だろう…信じて待つって、結構難しいや。
「ねぇちょっとシュウくーん。スバル君が俺のおにいちゃん姑って叫んでるんだけどちゃんと教育しなよねー。ルキ君は花子ちゃんの将来のお婿さんだし」
「コウこそルキを諭してやれよ。花子は絶対に誰にもやらんってここまで聞こえてきてるぞあんなのスバルが姑って言っても間違いないだろ」
だんだんと近付いてくる足音と声色に二人で小さく笑いながら溜息をついて語り合う。
嗚呼、本当……きっとルキ君と花子ちゃんは何か一つを乗り越えたんだろうなぁ…前より少し声色が暖かい気がする。
「ねぇねぇ、俺待ちきれない。もう扉開けちゃってもいい?」
「だーめ。折角頑張って待ったんだから今回は最後まで待ってやりなよ」
遂に賑やかな足音と声色は漸く一番近くになって
彼らがすぐそばまで来てくれたんだと実感する…
本当は今すぐにでもその扉を開けて「おかえり」、「さっきは考えなしな言葉を紡いでごめんね?」と言ってあげたいけれど我慢我慢…
ほら、もうすぐ扉は開かれる。
「3」
「2」
「「1」」
俺とシュウ君のカウントダウンが0を迎えた瞬間、
ガラリと開いた扉にもういいだろと勢いよく一直線に一番小さな人影に飛びついた。
「おかえりなさい花子ちゃん!さっきはごめんねっ!!」
ま、その後お約束通りルキ君とシュウ君に長々と説教を受けちゃったけど
今回だけはきっちりそれも受けてあげた。
うん、不用意な言葉を送っちゃった俺のささやかな罰だ……
というかスバル君が花子ちゃんの友達?
ねぇ!俺、聞いてないんだけど!?
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