98:穏やかなひととき


永遠を共に生きる事が出来ないとしても限られた時間一緒に…
そう、誓い合ったあの日から時間は酷く穏やかに流れている気がする
嗚呼、何だかルキさんと出会ってから色んな事がありすぎてこういう時間がとても幸せに感じる。





「幸せだなぁ」



「どうした?いきなり……まぁ、俺もこの時間は幸せだと思うが」



「え、あ、口にしてましたか……恥ずかしい」



放課後、いつもの様に三年生の教室にお邪魔してルキさんと二人、他愛のない話をしていれば
無意識に呟いていたであろう言葉に小さく笑いながら返してしまう最愛に苦笑。
だって仕方がない…こうして二人きりで穏やかにって…何だか久しぶりな気がするんだ。




どうしてか、今日は弟さん達が凄く良い笑顔で「先に帰る」と言って
そのまま猛ダッシュで私とルキさんを置いて本当に文字通り先に帰ってしまったので
今こうして久しぶりにルキさんと二人きりで本当に穏やかに過ごしている。






「こういう穏やかな時間…大切にしていきたいな」



「………そうですね」



そっと手の上に一回り大きな彼の手が重なって互いに微笑むけれど
私の手は暖かくて彼の手は冷たい…それが決定的な種族の差を酷く自覚してしまい、キュっと胸が苦しくなる。
けれど私もルキさんも誓ったんだ……有限の時を、私が…死んでしまうまで一緒に居ようって。




「……きっと何十年経っても俺は変わらないんだろうな。」



「……私は、変わってしまいますね………………」



「おい花子、お前今自分が年を重ねたら捨てられるんじゃないかと思っただろ……全く、」




不意に呟かれた彼の台詞に思わず俯いて相も変わらず後ろ向きな考えを胸に抱けば
こつんと頭を小突かれてしまいゆっくりと顔を上げる
するとルキさんは困ったように…けれど、穏やかに苦笑しながら私を見ていてくれていた。






「俺は花子を愛しているから…例えお前が皺まみれのご老体になってもそれは変わらないさ」



「……………ありがとうございます」



「本当に、変わったな……お前も、俺も」




彼の真っすぐな言葉に依然の私なら考えられないほど素直な感謝の言葉を自然と口にして二人で思わず小さく吹き出してしまう
嗚呼、こんな穏やかな会話……想像してなかった。






彼の言葉に少しネガティブになって…
そんな私に貴方は真っすぐに想いを伝えてくれて…
私はその言葉を素直に受け入れて…





本当に、意地悪な小森さんの言っていた通り、永遠の時間を一緒に過ごすのも素敵かもしれないけれど
こうして有限の時間をひたすらに幸せに過ごす事だってまた幸せの形なのかもしれないと、素直に思えてしまう。
嗚呼、以前の卑屈で全てにおいて裏返しに物事を見てしまう私では考えられなかった結論だ。





それも全て、目の前の穏やかに微笑んでくれているルキさんのお陰だ…





「さぁ花子……そろそろ帰ろう。もういい時間だ」



「嗚呼、そうですね…こんな時間」



ガタリと立ち上がって当たり前の様に差し出してくれる彼の手にそっと自身の手を乗せる。
嗚呼、あの時……屋上で半ば強制的だったけれどこの手を取って本当によかったと、今は思える。




「そう言えばもうすぐまた七夕だな……今年もするか。短冊、」



「そうですね…またユーマさん達は一番高い所に短冊を飾るんでしょうか」




帰りの廊下、以前の楽しかった思い出を二人で語り合って
今年もまた同じように楽しい思い出を作ろうと互いに言葉を交わしていた時…





「おや、とても愉快な事になっておいでで」




「?」




「…………」





誰かがすれ違いざまにそんな事を言ったと思ったのに
ぱっと振り返ってもそこには誰もいなかった。




只、




「ルキさん……?」



先程まで穏やかに歩いていた彼の表情が酷く険しいものに一瞬変わったような気がした。



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