99:嘆く雨
「今年は残念でしたね……」
「嗚呼、仕方がない…毎年都合よく晴れと言う訳にもいかないだろうしな」
すっかり蒸し暑い夜。
今年も皆で七夕を楽しもうと思っていたけれど、生憎の雨となりそれは叶わなかった。
静かに雨が降る空を残念そうに見つめる弟さん達の表情は記憶に新しい。
コウさんもユーマさんもアズサさんも
何かまた、どうしても叶えたい願い事があったらしいのだけれど…
「花子……それより最近周りで何か変わった事はないか?」
「?変わった事ですか?……いえ、特には」
「そうか…………俺の思い過ごし、か」
今日も今日とてしとしと降る雨の中、二人で傘を差し帰路についていれば不意に問われたその言葉に私は首を傾げるしかない。
変わった事……いや、正直ルキさんと出会ってから変わった事しかないのでどれを指して変わったと言えばいいのか分からないけれど…
最近はいつだって周りにイケメンの吸血鬼さんが居て、ありがたい事に沢山私と話をしてくれて…
それから隣にいる酷く過保護な彼は相変わらず私を心配して気遣ってくれて………ううん、何ともこれを日常だと思ってしまうには酷く贅沢な気持ちでいっぱいだけれど
事実それが今や欠かせない…大切な日常となっている。
けれどそんな私の返答にルキさんはぽつりと雨音にかき消されるような小さな声で何かを呟いた気がした
「ルキさん?あの……」
「いや、何でもない。どうやら俺が警戒しすぎているようだ」
そんな彼の不自然な態度を疑問に想い、どうしたのかと問うけれど
ルキさんは困ったように笑って傘を持たない方の手でそっと私の頭を撫でるばかり。
ううん、警戒のし過ぎ……確かに以前それでスバルさんにルキさんは心当たりのない酷い態度を取ってしまったんだっけ。
そんな事を考えていれば静かに降っていた雨が次第に強くなって来てしまったので
少し急ごうかと、二人して歩く足を速めたその時、
目の前にぽつり
黒い人影が出来た
「ごきげんよう。無神ルキ。そして花子さん」
「え?」
突然現れた例にも漏れず学校で有名なその人は
私とルキさんを視線で捕らえたかと思うとその綺麗な真っ赤な瞳をニタリと三日月の形に歪め、同じく上がった口角でひとつ、言葉を零した。
「さぁ、絶望しましょうか」
瞬間、雨音は更に大きくなって
視界は真っ白に染まってしまった。
あれ、何だかこの雨音……誰かが泣き叫んでるように聞こえる。
なんて、そんな呑気な思考がぼんやりと頭をよぎって消えた
降りしきる大雨。
消えた三つの人影
虚しく残されたのは黒と水色の傘が二つだけ…
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