100:潰れた願い


今年は七夕様は生憎の雨だった…
あーあ…初めての七夕の願いは叶えてもらったから今年もって…思ったのになぁ




「七夕……残念だったねぇ」



「まぁ仕方ねぇよ…織姫と彦星ってバカップルもそうそう他人の願い無償では叶えられねぇって事だろ?」




ぼんやりと今日も静かに降る雨を窓から覗いて溜息をひとつ
そんな俺に後ろからユーマ君がフォローしてくれるけれどやっぱりその声は残念そうだし俺もホント残念だ。
今年はコレ……お願いしようと思ったのになぁ…





7月7日にまたユーマ君にお願いして一番高い所に付けてもらうはずだった短冊を手に取ってまた溜息。
前の御願い事……ルキ君と花子ちゃんが幸せに…笑っていられますように
それは叶った…二人はもう相手だけなんて言わない…お互いに幸せにって願ってくれるようになった
あの時……本当に嬉しくて嬉しくて…
自分の事じゃないのにあそこまで喜んだのは随分と前だと言うのに昨日の事の様に覚えてる




「これ、叶えたいよねー」




ちらりと見た自身の手に持つ短冊
そこに書かれているのは小さくて大きな願い…



『花子ちゃんが最期までルキ君と一緒に笑っていられますように』




あの日改めて思い知らされた俺達と花子ちゃんとの決定的な違い
彼女はエム猫ちゃんみたいにトクベツな子じゃないから覚醒は難しい……
だから俺達…ルキ君と一緒に居れる時間は酷く短くて限られてる。





けど………ルキ君と花子ちゃんはそれでも一緒に居るって選択した
俺も……そんな二人の選択を全力で応援したいし見守りたいって思う。




前の御願いはずーっとって書いたけれど
それはどうしても叶わないってわかったから……だったらせめて、彼女が俺達と同じ時間を歩いてくれてる時はせめてと
もう一度空のカップルにお願いしたかったんだ。





「ユーマ君は?ユーマ君も書いてたでしょ短冊……なんて書いたの?」




「あ?俺?あー……なんつーか前と似たような感じだな」




「そっか……やーっぱりよく分かんないけど俺達ルキ君と花子ちゃんの幸せすっごく願ってるよねー」





俺の質問に間延びした声で答えたユーマ君のその言葉に小さく吹き出してしまうけれどその気持ちは凄くわかる。
願いを叶えてもらうんだから普通は自分たちの事を書けばいいのにどうしてか俺達の願いはあの二人の幸せを願う事ばかり…




まぁきっとそれだけ俺もユーマ君も、勿論アズサ君も
二人の事が大好きって事なんだろうけど…
それこそ最近二人きりになれてない花子ちゃんとルキ君に気を遣って俺達は先に屋敷に帰って来るくらいには二人の幸せを優先しちゃってる。
まぁ……アズサ君はちょっと帰りが遅いって心配して迎えに行っちゃったけど…花子ちゃんもルキ君も子供じゃないんだから平気だと思うんだよね。





そんな微笑ましい事をのんびりと考えていれば
玄関先から大きな音がしたので何事かと思ってバタバタとユーマ君と一緒に走り向かった。
するとそこには雨でびしょ濡れのアズサ君が黒と水色の傘を持って酷く動揺した顔で立ち尽くしていて…






「アズサ君?」




「これ………花子と、ルキの傘…………道端に………ふたり、何処にも……いな、かった……」




「え」





くしゃり




俺の手の中で大切な願いの書かれた短冊が
静かな音を立てて潰れて願いも一緒に潰れてしまった気がした。



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