86:まっすぐで誠実


キッチンの中からのぞく様々な色のリボン
残念ながらその中に緑色は無くて…




けれど彼女に悪意がないのは分かっていたので
僕は静かに笑ってデパートにダッシュした。




「んーやっぱり忘れられちゃってたかなぁ」




自分好みのチョコとイメージカラーの緑のリボンを手にしながら小さく呟く。
僕の親友はちょっぴり自信不足。
大方「自分みたいなのからチョコなんて」って理由で僕の分は無かったんだと思う。



「でも友チョコは花子ちゃんからしか貰えないんだけどなぁ」




自信が無さ過ぎてそういう肝心な所抜けちゃってるところも笑えてしまって
僕だけ仲間外れにされてるにも関わらずその笑い声は酷く明るい。
ううん、友達を理解してあげるってなんだか心地いい。




「ま、でもやっぱりルキ以外に負けるのはなんだかヤだな。」




やっぱりこの時期だから手作りチョココーナーにはたくさんのビッチちゃんが群がっていて
その中で色々探している間彼女の僕を見る目は欲望でまみれていたけれど…
ねぇ、ビッチちゃん達……キミ達はどうしてここにいるのかな?
その手に持っているチョコや包装紙は僕に捧げるモノじゃないでしょ?




「ううん、早く帰ろう。」




どうしてだか今まではそんな事を感じなかったのに
胸の内がよくわからない、イライラとムカムカしたものに支配されそうで
手早く会計を済ませてそそくさと屋敷へと戻る足を速めた。




きっと全てにおいて誠実すぎる彼女の傍にずっといたからだ




「本当に花子ちゃんは怖いなぁ」




自分に自信が無くて、それでも必死にルキを愛そうと
コウやユーマ、アズサにシュウ…みんなの好意に応えようと
一生懸命下を向いていた顔を上げようと頑張る僕の親友は本当に誠実。




「(同じビッチちゃんなのに全然違うや…)」



そんな事を思いながらも僕は一秒でも早くあのキッチンへと戻りたくて
リムジンの使い魔にもっと飛ばすようにと指示を出す。





「シュウおにいちゃん……信じるって、難しいですね。」



は?



急いでキッチンへと戻ってみれば花子ちゃんのそんな言葉を耳にする。
え、シュウ“お兄ちゃん”?
なにそれ何のプレイ?シュウってば花子ちゃんに気があるのは知ってたけどルキがいない間になんという兄弟プレイを花子ちゃんに強要してるんだ僕も混ぜてほしい。
けれどそれより気になった言葉…




「信じる」




そっか…花子ちゃんは今度それを手にしようとするんだね。
けれどその手が少し震えてるのが視界に入って胸がぎゅって苦しくなった。
僕と花子ちゃんは少しだけ似ているから気持ち……わかる気がするよ。




「そうだよねぇ〜僕も信じるって無理無理!!だって裏切られたとき立ち直れないもの!!」




あくまであっけらかんと、飄々と言葉にして彼女の後ろから登場したけれど
この言葉はきっと今の僕と彼女の気持ちそのものだ。




信じてと軽々しく口にされて
そのままに信じた末路なんて大体が同じ。
裏切りや廃棄しか先に待っていなかった今までの経験からしてみれば
信じるという行為は酷く恐ろしくて仕方がない。
……いくら頭でそれが大事だと理解していたとしても、だ。




突然の僕の登場に驚いていた彼女に自身がここにやってきた理由を話す。
するとやっぱり彼女の口から出た言葉は僕の予想通りのもので……
僕が言うのもなんだけれど、もうちょっと自分の価値って奴を知ってほしいなぁとは少し思っちゃったりもした。





「僕に食べられたいビッチちゃんはたくさんいるけど親友は花子ちゃんだけなんだよ?」





その言葉に彼女はどこかおかしそうに微笑んだ。
そうそう、僕にとって足を開くビッチちゃんはたっくさんいるけれど
僕の胸の内を開いてくれるのは君だけなんだからね。




そんなどこか暖かい空間に自然と顔を緩めていれば
花子ちゃんが小さな声を上げた。
…………どうしたんだろう。何かあったのかな。




チラリと先程いつの間に僕がここまで花子ちゃんに懐いちゃってたのか聞いたシュウの顔を見た。
するとどうしてだがすごく優しい顔をしていて更に疑問符が浮かぶ。
………シュウのこういう顔って花子ちゃんの前以外では見たことないや。





そして数秒固まっていた彼女はコチラを向いて酷くまっすぐな視線で僕を射貫いたのだ。




「ライトさん、ごめんなさい。私……親友としてもっとしかりしたいです。」




「?ん?う、うん…?」





その瞳は本当にまっすぐで、僕は思わず目を見開いてしまった。
嗚呼、君は本当に何事にも誠実でどこまでも真っすぐなんだね。




「ふはっ……おいライト。お前とんでもない女、親友にしちまったな。」




シュウの声にもう一度彼の顔を見ればどうしてだかその表情はやっぱり柔らかくて
どうしてそんな顔で僕を見ているのかは分からなかった…分からなかった、けど





「花子ちゃん……」




ねぇ花子ちゃん、僕と君がどこか似ているのだとしたら僕も…




「自信………持ちたい」





僕もいつか君みたいに真っすぐ、誠実な目で誰かを射貫くことが出来るだろうか。





小さくて華奢なその背中がどうしてだか
僕には酷く大きな夜空に見えたんだ。



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