10:溢れる不満


「んんん!今日もシュウさんは格好良くて綺麗で可愛いこの世の奇跡!!ねっねっスバル君もそう思うよね!?」



「あーハイハイ。花子が俺の腰砕かねぇなら何だっていいわもう。」



「…………チッ」




目の前の微笑ましいやり取りに俺は不機嫌に小さく舌打ちをする。
分かってる…頭ではちゃんと分かってる。
花子が俺の事を好きすぎて近付けないって事…
スバルは只単に花子の友達のポジションだって事…


分かってる。
分かってるけど…
そろそろ俺も不満が限界まで来ている訳で。


いつもいつも彼氏である俺の場所のはずである花子の腕には絶対にスバルがいて
今日だって少し離れた場所で興奮の余りスバルに抱き付きながらこちらをニコニコしながら鑑賞してる。
…どうせ抱き締めるならいつもみたいにスバルの腰バキバキに折れよなんで今日は優しくしてんだムカツク。



そしてつもりまくったその不満は次のスバルと花子の行動で遂に爆発してしまう事となる。



「ああああスバル君スバル君…っ!シュウさんの眉間に皺よってるよぉぉ不機嫌なシュウさんも素敵だね!」



「はいはい分かった分かりました。取りあえず落ち着けバーカ。」



「……っ」



ガタリ。

我慢の限界を迎えてそのまま席を立って二人の元へずかずかと歩み寄る。
だって今、俺の仕草に興奮した花子はスバルの胸に顔を埋めて、スバルはそんな花子の頭を優しく撫でた。
…傍から見れば俺はどっかの鑑賞される美術品みたいで、花子とスバルが等身大の恋人同士みたいだ。



「花子、」



「しゅ、シュウさん…?」



彼女の顔に戸惑いの色が見える。
仕方ない…だって今、俺の顔は嫉妬で激しく歪んでしまっている。



「花子、そんなに俺の事好きすぎるなら俺と付き合うのやめる?スバルの方がよっぽど花子とお似合いにしか見えないんだけど。」



「しゅうさ…どうし…」



「お、オイ。シュウ…どうしちまったんだよ…こんなのいつもの事だろ?」




同じタイミングで戸惑いの言葉を上げる二人に更に俺の不満は爆発する。
そうだよ、いつもの事だよ。
いつも俺は天使か妖精の類でお前はこうして花子と近くにいれて普通に触れてもらえてる。



「いつも俺を祭り上げるだけ上げておいてこうして近付いても来てくれない…俺がどれだけ…どれだけ…っ」



一度溢れた言葉はもう止まらなくて
次第に震えてきてしまっている声に構わず普段より饒舌に俺の感情を叩き付けていれば
不意に二人の瞳がギョっと見開いてしまう。
そして気付く頬に流れる自分の涙…



「…っ、もういい。花子なんて知らない」



恥ずかしくて悔しくて、悲しくて…
色々な感情がごちゃごちゃになってしまいガキみたいな捨て台詞を吐いて足早に自室へ戻ってしっかりと鍵を閉める。
…なんだよ。なんで俺がこんなにやきもち妬かなきゃならないんだよ。



「花子の馬鹿。」



ずるずると壁にもたれ掛りながら座り込んで小さく息を吐く。
未だに涙が止まることはない。
基本面倒だから感情に波風立てたくないのにどうして彼女の事になるとこんなにも激しく揺さぶられてしまうんだろう。


きっと今頃「やきもち妬いたシュウさんも可愛い!」とか言いながらスバルに抱き付いてるんだろ。
そう思うとまた更に不満が蓄積されて乱暴に自身の頭を掻きむしった。



「俺の事大好きすぎる花子なんて…だいきらいだ。」



贅沢過ぎるそんな悩みに
俺はまた静かに涙を零して息を吐いた。



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