11:覚悟して?
「………」
「………ぐすっ」
出づらい…
非常に、出辛い。
あれから暫くして、少し冷静さを取り戻した俺は
こんな事をしたところで何も解決にはならないと少し頭を冷やして涙を拭い扉を開けようとした。
…したのはいいんだけど。
「うぅ…シュウさんを泣かしてしまった…ぐすっ、私は万死に値する…んぶぶ。どうやって死ねばいいんだ…首つり?張り付け?打ち首獄門?うううううでももう一度あの愛しきお顔を拝見してから死にたいうううう…」
どうやら扉の前で俺の最愛が俺を泣かしてしまった事に激しくショックを受け咽び泣いているらしく
扉越しから彼女の声ととんでもない負のオーラが滲み出てしまっていて正直開けるのが怖い。
ここまでへこんでくれるとは思ってなかったので、少し罪悪感さえ感じる。
そうだよな…やっぱり花子は俺の事が大好きで、大好きすぎるからああやってスバルに抱き付いてるんだ。
…べつに花子には悪気なんてないんだ。
ただ、本当に俺が好きでどうしていいか分からないだけ。
そう思えばやっぱり不満や怒りは未だに残るものの愛おしさが勝ってしまって
ゆっくり扉を開けようと手をかけた瞬間扉の向こうの彼女からとんでも発言。
「うぅ…シュウさん出てきてくれない。…全身の毛穴と言う毛穴から出血したら血の香りに誘われて出てきてくれるかな?……よし。」
「………っ!」
ビターン!!!!
「へぶっ!!」
花子の物騒すぎる発言と、その後の何かを決意したような言葉に焦って勢いよく扉を開ける。
やりかねない。俺の事好きすぎる花子なら本気でやりかねない。
そしてどうやらすぐ近くにいたであろう花子は俺が勢いよく開けてしまった扉に思いっきり顔面をぶつけてしまいそのままゴロンと後ろに倒れてしまった。
…やばい、やってしまった。
数秒固まってしまっていればガバリと花子が勢いよく起き上がる。
…ど、どうしよう。花子の額から血が出てる。
「うぅ…最期にシュウさんのお顔見れて良かった…もう思い残すことはない…!」
「まてまてまてまて」
「離してください!シュウさんを泣かしてしまった罰を受けないと!!」
俺の顔を見るやいなや嬉しそうに笑ってそう言った花子を後ろから羽交い絞めにして
ずるずるとそのまま自室へと引き摺り込んだ。
途中めちゃめちゃに暴れられたけれど多分この手を離したらコイツ本気で打ち首獄門しに行くから絶対に離せない。
久々に、本気だしたと思う。
「うぅ…ぐすっ…しゅうしゃ…うぅぅ…」
「………。」
どうすんだコレ。
何とか花子を部屋まで引き摺り込んだのはいいけれど、彼女は地面に突っ伏してひたすら泣き続けている。
いや、うん…怒って泣いてしまった俺が言うのもなんだけど…
そんなに悲しむことじゃないと思う。
「花子、」
「しゅうしゃ…ごめ、ごめんなさい…私、わたし…うぅぅ…どうしたら許して頂けるのでしょうか…うぇぇ…やっぱり死んだ方がいいですか…」
正直さっきまで怒ってたし不満もあったけどそこまでへこまれてしまっていたらもう何も言えないし怒る気にもなれない。
今は取りあえず顔を床にべったり張り付けている最愛をどうにかしたい気持ちでいっぱいだ。
「花子、お前…明日仕事休みだったな。」
「?は…はい、そうですが…」
「じゃぁ俺を泣かせたお詫びに今日はここで一緒に寝て?それで許してあげる。」
俺のそんな提案に彼女の顔はぼふんと赤くなるが今回は負い目があるのだろう
小さく頷いてくれたので、俺は満足げに笑ったが…
花子の行動はやはりどうしても斜め上に行くらしい。
「おい花子。なんでそんな隅っこで小さくなってんの?ベッドはこっち。」
「ここで一緒に寝ろとは言われましたがベッドでとは言われてませんというかシュウさんのベッドに入ったらもう私鼻血で死にますから!」
花子は何を思ったのか部屋の隅までちょこちょこと移動してそのまま小さく蹲りドヤ顔でこちらを見つめている。
その顔は「私は気にせずシュウさんはベッドで素敵な天使の寝顔を見せてください!さぁさぁ!」と言ってしまっているので
俺は相変わらず呆れて溜息を吐いてしまう。
全く…そっちがその気ならこっちにだって考えがあるんだからな。
「シュウさん…?」
「俺もここで寝る。」
彼女の隣にぴったりと寄り添ってベッドから持ってきたシーツを俺と彼女の身体にかぶせてそのまま瞳を閉じる。
そして少し強引に彼女の頭を自身の肩へ乗せるとすごい歓喜の断末魔が聞こえたけれど、もうそれは聞こえないふりだ。
花子が俺の事を天使カテゴリから降ろしてくれないなら、俺がもう無理矢理自分から降りる事にする。
「花子…これからはもっと迫るから…覚悟しとけよ。」
「そそそそそんなそんなそんな私心臓いくつあっても足りませんよ…!」
「知るかそんなの。じゃぁ10億くらい用意しとけ。…多分足りないけど。」
こてんと、彼女の頭の上に自身の頭を乗せてぐりぐりと擦りつければ
また訳の分からない断末魔が響くけれど、もう俺はそんなんで引いたりしないからな。
お前がこのまま俺に擦り寄ってくるレベルまでガンガン攻めてやる。
しかしどうやら今日はこれまでのようだ。
俺も花子もさっきまでひたすら涙を流してしまっていたので少し疲れてしまったようで
そのまま二人で深く深く夢の中へと旅立ってしまった。
だから小さなパシャリと言う電子音に気付く事はなかったのだ…
もういいよ、花子の天使から降ろしてとか言わない。
そんなの待ってたら10世紀くらい余裕ですぎそうだ。
俺はそんな気長じゃないから天使のまま花子に迫る。
もう知らない。俺をやる気にさせた花子が悪いんだ。
後日―
「おいスバル。コレ、何。」
「いいいいいいいや、べべべべべつに…?」
「…ケータイを粉砕されるか、その写メをお兄ちゃんに寄越すかどちらか選べ。」
実は可愛いモノ好きだったスバルがこっそり部屋の隅で眠っていた俺と花子を撮影して
携帯の待ち受けにしてたのを発見してすげぇ威圧で脅して可愛い彼女と俺の寝顔を手に入れたのはまた別の話。
(「……かわいい」)
(「?シュウさん?どうしたんですか?ケータイ見て嬉しそう…」)
(「んーん…なんでもない。」)
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