13:自然消滅警報


花子を傷付けてしまってから約一か月。
いや、うん。アイツが勝手に自分で傷付いただけだけど…
あれから彼女は毎日遊びに来てたのに数日に一回しか来なくなった。


それは日を追うごとに間隔が長くなって…
そして滞在時間も少しずつ短くなっていった。



態度は以前と変わらないのに
何だかそのうち彼女がもう二度と俺の所に来ないんじゃないかって柄にもなく不安で胸が騒めいた。
…花子の事になるといつもらしくなくなってしまうらしい。



「花子、ちょっと…」



「?はい、どうかしましたか?シュウさん。」



俺が手招きをすれば傍とまではいかないが少しばかり離れたところで首を傾げる
もう少し、もう少しこっち来いよ…。
強引に腕、引っ張っても良かったけれど彼女を傷付けてる俺としては少し負い目があるのでそう言うわけにはいかず
微妙な距離のまま彼女に言葉を投げかける。



「花子、なんで最近毎日遊びに来ないの?」


「そうですか?気付きませんでした。」


「……此処にいる時間、短くなってるけど。…なんで?」


「…最近お仕事が忙しくて。」



ビッタリ。
花子の笑顔は彼女の顔から張り付いて離れない。
でも少しだけ…ほんの少しだけの違和感を俺は見過ごさない。



「花子、お前。わざとだろ。」



俺の少しばかり苛ついた口調にそれでも彼女は笑顔を辞めずに
いつもと同じ…本当に同じような明るい、馬鹿なテンションで俺のイライラに応える。



「だって私ばっかり構ってるのもいけないでしょう?」



「………なにそれ。」



きっと花子は以前俺が彼女を傷付けた言葉を気にしているんだろうけれど。
でも、それでもあんまりじゃないか?
俺の事好きならさ…あの言葉を信じたままでも、もっと言い方あるだろ?
「私以外を見るなんて最低!」とか「どうして私がめんどくさい女認定されなきゃいけないの!?」とかさ…



何で俺の事怒んないで全部受け入れ態勢になってんだよお前。



「寧ろ申し訳なかったです今まで気付かなくて…私ばっかりがシュウさんを占領しちゃいけませんものね!!」


「花子、ちが…」


「嗚呼、でもご安心を!私はシュウさんだけなので!!うへへ、天使!」


「花子…、」


俺に弁解させてくれない彼女はそのままチラリと時計を見て
「ああ、もう時間だ」って呟けばスタスタとそのまま部屋を出ていってしまう。
どうしよう。俺、もしかしなくてもとんでもない事、したみたいだ。



帰り際、花子はそっとこちらを振り返り
幸せそうに…本当に幸せそうに笑った。



「シュウさん、好きでいさせてくれて…ありがとうございます。」



「………っ!」



パタリ。
俺が彼女を抱きとめる前にそれは無情にも閉じられてしまって
もう多分このままじゃ花子は二度とここにはやってこないと確信に近い予感が脳裏をよぎる。



「…くそっ」



どうしたらいいかとか、何が最善なのかとかそんなの考える事が出来なくて
気が付けば普段絶対そんな事しないはずなのに全速力で帰ってしまった彼女の後を追っていた。



くそ…なんだよ。
なんなんだよ。
何でこんなに必死なんだよ俺…。



よく分かんない…けど、うん。
俺は花子をこのまま手放したら本当に生ける屍になってしまいそうで
それが酷く恐ろしく感じてしまっていると言う事は確かなようだ。



俺、いつの間に花子に此処まで溺れてたんだろう。



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