15:変化
「すっごい…すっごい揺れてる。」
「だだだだだってだってだって…」
「…大人しくしないとまた酒飲ませて記憶飛ばすぞ。」
ピタリ。
瞬間花子の動きはすぐに止まってしまった。
ふーん…こう言えば震え、止まるんだ。
と言うか酒飲ませたらもれなく俺の身も危険になるからあまり頻繁には飲ませる気はないけれど…
今俺の部屋で、俺のベッドの上で彼女を後ろからぎゅうぎゅうと抱き締めている。
ていうかこの状態で襲ってない俺は理性だけなら彼女に神様認定されてもいいって思ってる。
うー…ん。こうして彼女に自分から触れてる分には何ともないのか。
以前彼女に触れられた時のあの安堵感は一体何だったのか…
答えが見つからず抱き締める腕に更に力を込めてぐりぐりと肩口に顔を擦りつければ
震えまくる声が部屋中に響き渡る。
もう…いい加減これくらいは慣れろ馬鹿。
「なぁ花子、そろそろハグぐらいは大人しく黙ってされろよ。この先全然進めない。」
「ここここここの先…この先!?ちゃんと赤ちゃんの認知はしてくださいますかシュウしゃん!!」
「……ぶっ飛びすぎだろ。」
俺の不満を聞けばそんな事をのたうち回る花子に溜息をついてそのままぐいっと体を後ろへと傾ける。
ぼふんと背中にはマット。俺の上には最愛。
うーん…何とも贅沢だ。
「別に花子がその気なら今からシてやっても構わないけれど…?」
「…す、すばすばすばスバル君スバル君スバル君の腰!!」
「…おい、俺の上でなんで末っ子の腰を求めてんだあんた。犯すぞ。」
ニヤリと意地悪に微笑みながらされるがままの彼女の首筋にキスを落とせばその体温は急上昇する。
そこまでは俺のお望みの展開だったけれど、花子が悶絶しすぎてどうしようもない感情のはけ口にいつも通りスバルを求めたからビキリと青筋を立てる。
そして腹が立ったのでクルリと彼女を体を動かして互いに向き合う体制を取れば花子の真っ赤になり過ぎた顔に静かに苦笑。
「なぁ花子…俺が好きすぎてどうしようもないんならスバルじゃなくて俺の事ぎゅってしてよ。」
「………シュウさんは腰を骨折したいのですか?」
「ふはっ……それはちょっとヤだけど。…でも、うん。花子が他の男をぎゅってしてるよりかはいいかもな。」
ゆるゆると優しく彼女の頬を撫でてやればくすぐったかったのかぎゅっと目を瞑ったので
そのまま音を立てて可愛い瞼にキスをすればそっと伸びてきた彼女の両手。
「………花子?」
「…シュウさん、すき。」
「…………うん。」
俺を包み込むその腕は優しくて暖かくて
また以前寝たふりしたときみたいに微睡へと意識を誘い込んでくる。
嗚呼、ホラ…やっぱり花子から触れてくるとこんなにも安心して…心地いい。
「ねぇ花子…あんた、ヒュノプスの生まれ変わりなの?」
神話にある眠りの神の名を出せばふるふると首を横に振る彼女の頭を優しく撫でてそのまま意識を手放す。
なんだろう…花子に触れられるとどうしてこんなにも…。
「シュウさん…おやすみなさい。」
穏やかなその声さえも心地よくて返事さえもままならないまま
柔らかで暖かい彼女の腕を堪能しながら眠りについた。
ねぇ花子…あんたホント一体何者なの?
俺にトクベツをくれて、
俺を安心させて
俺のトクベツを独り占めして…
そして俺を溺死レベルまで溺れさせるお前は一体何…?
沈みゆく意識で彼女にそう問うても答えてくれるはずもなく
只々よく分からないけれどもうあの日みたいに冷たい雨に打たれなくてもいいかなって思った自分の心の変化に少しだけ驚いた。
(「…俺の腰はバキバキに折るくせにシュウは優しく抱くとか何の贔屓だよ5字以内で簡潔に述べろ。」)
(「あいゆえに」)
(「………なぁ花子ってそういうのは恥ずかしげもなくキッパリ言うんだな。俺今顔真っ赤なんだけど。」)
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