16:夢中の仮定


「しゅ、しゅうしゃ…こんびゃんわ…」



「お、おい花子…どうした?今日はいつも以上におかしい気がするけど…」



いつものようにやって来た花子の違和感に少しばかり動揺してしまう。
呂律が全然回ってないし、顔色も青いような赤いような…
ん?いっそ紫じゃないか?


けれど、それでも花子はへらへらと笑って笑顔を絶やさないでいる。
いや、でもコレ絶対おかしいだろ。
少し彼女が心配になって静かに距離を縮めるけれど、どうしてか今日は泣かないし叫ばない。
只々ニコニコと微笑んでるだけだ。



……もしかして遂に俺に慣れてくれたのか?



「花子…ようやく慣れた?」



「しゅうしゃ…しゅうしゃ…」



「え、ちょ…花子?」




純粋に嬉しくて彼女に手を伸ばそうとしたら
笑顔のまま壊れた機械のように俺の名前しか呼ばない彼女に動揺してしまい
そのままそっと頬に触れれば動揺が驚愕へと変わり、怠いから滅多に叫ぶ事のない俺の怒鳴り声が屋敷に響き渡る。



「沸騰するくらい熱出てるクセに遊びになんて来るなこの馬鹿花子!!!」




俺の珍しい怒鳴り声にビビったどっかの末っ子が棺桶から勢いよく飛び出してきて
何事かとあわあわしだしたのなんてこの際無視だ。
今は彼女をベッドへ寝かしつける事が先決。





「しゅうしゃ…ふへ、しゅーしゃー…ふへへ」



「あーもーわかった、分かりました。俺はここにいるから、ホラ…冷たいタオル持ってきてやるから離せ。」



ぎゅうぎゅう。
すりすり。



今、熱で頭がおかしくなってるであろう花子は、なんと自分から俺に抱き付いてすりすりと愛おしげに頬擦りしてきてしまっている。



…もう花子、ずっと熱出てればいいのに。



けれどそう言う訳にもいかないのは分かっているから薬とか飲み物、後さっき言ってた冷えたタオルを持って来てやりたいのに全然離してくれない。
熱出てなかったら本気でこのままベッドへと俺も雪崩れ込むんだけれど…何とも複雑な気分だ。



「ほーら、花子。イイコだから…な?」



「…………。」



ぐいっと力を込めて彼女を俺の身体から離して
ガキに言い聞かせるように諭してやればとんでもなく不機嫌な、拗ねたような顔になってしまう俺の最愛。
そしてそんな彼女の口から核爆弾級の発言が下される。



「……シュウさんにぎゅって出来ないならイイコやめる。…悪い子がいい。」



「…おーいスバル。5秒以内に来い。さもなくばお前の愛用の棺桶を粉末状にしてゴミの日に出す。」



「なぁ!いっつも思うけど俺!俺すげぇ可哀想じゃねぇか!?」




そんな事言われても尚離れようとする馬鹿野郎な彼氏がいるなら見てみたい。
俺は迷わず花子を安心させるようにぎゅっと抱き締めて、自称不憫な末っ子を呼び出し、薬やらその他諸々を持ってくるように指示を飛ばす。
その間も花子は俺の腕の中できゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐのだ。



「はぁ…いつもこれくらいなら可愛いのに。」



小さく本人に聴こえない様にぼやいて
早く治ってほしいような欲しくないような複雑な気持ちのまま
少しでも気分が楽になるようにとそっとまるでまじないのようにその熱い額にキスをした。





そして翌日…





「ひぎぃぃぃぃい!!!なななななしゅ、ふぁ!?(どうして私がシュウさんに抱き締められながらシュウさんのベッドで眠ってるんですかどなたがご説明願う!!)」




「………現実マジ甘くない。」




目を醒ませば花子はすっかり元通りになっていて
いきなりの断末魔に俺は顔を歪めてでかい溜息をはいた。
…くそ。昨日あんなに可愛かったのにもう元通りの俺の事が好きすぎてツラい花子じゃないか。
そしてそこでふと湧いた一つの疑問。



「なぁ花子、どうして風邪ひいたの?仕事、キツかった?」



あんな俺的には大歓迎だったけれど頭おかしくなるまで体調を崩すなんてよっぽどだろ…
もしかしたらちょっと仕事とかで無理してんじゃないかって心配になって聞いてみれば
彼女はさも当たり前のような感じで馬鹿な発言をする。



「え、だって寝てませんもん。お昼はお仕事だし、夜はこうしてシュウさんに愛に来てますから!あ、ちがった!!会いに来てますから!!!」



「………職場に住所変更届を出せ。今日からここで暮せ。どうせ疲れてんなら来るなって言っても来る気だろ花子は。」



そう言えばそうだった。
コイツ朝から夕方までは仕事で、夜はずーっと俺の所に遊びに来てた。
そうだよ、よくよく考えたらいつ寝てんだよって話だ。
何、と言う事は今まで限界超えて気を失うくらいでようやく寝てた感じか…?
…全然気付かなかった。




「…それだけ花子に会えるって事が嬉しくて舞い上がってたって事?」




小さく呟いてみればますますそれが現実味を帯びてきて
瞬時に赤くなる自身の顔を隠すように彼女をぎゅうっと抱き締めた。
とんでもなく大きな断末魔も恥ずかし過ぎて死にたい俺には届かない。



なんだよソレ。
どんだけ花子に夢中なんだ俺…



驚く程の感情に戸惑いながらも
ふと一つの仮定を頭の中に浮かべてみる。




もしかして俺…花子が俺を好きな以上に花子の事を好きになりつつあるのかもしれない。



戻る


ALICE+