17:お引越し


「と、言うわけで花子だ。危害加えたらぶち殺してやるから絶対に泣かすなよ。」



「…遂に24時間俺は自分の腰を守る羽目になっちまった家出してぇ…」




あれから花子に職場に住所変更届を出させてそのまま屋敷に引っ越させた。
沢山の荷物を抱えながら花子はご機嫌である。
…自分で言うのもおかしいけれど多分これから四六時中俺と一緒なのが嬉しいのだろう。



しかし問題は山ほどある。
まず三つ子だ。
この問題児たちが花子になにかしでかさないという保証はほぼゼロだし
アヤトに至っては彼女を半泣きにさせた前科がある。
そしてカナトも先程から花子をじっと見つめ続けて何を考えているか分からないし
ライトはもはや花子で何して遊ぶか試行錯誤中である。



なので初めに一度こうして釘をさしてみたものの
たいして効果はないだろう…



そして末っ子のスバルは…うん。
ぶるぶる震えながら自身の腰を庇うように抱き締めてるけどそれはもう諦めろとしか言いようがない。
花子が屋敷に住むと決まった時点でお前の腰に未来はない。



最後は…



チラリと、母親も同じである自身の弟を見やる。
奴は…レイジは何を考えているのか全く分からない。
けれどその赤い瞳がどうしてかギラリと光ったように見えた。
間違いなく気を付けるべきはレイジだろう。




「で、花子の部屋だけど…」



「シュウさんのお部屋から一番離れたところでお願いします。」



「どういう事だこの馬鹿花子」



俺の傍が一番安全だろうと思って自身の部屋の隣を指定しようとすれば
当の本人から空気読めない大馬鹿発言が出てしまったので
無遠慮にその小さな顔を鷲掴んで詰め寄る。
自分でも分かる位顔面に青筋が立っている感覚がする。
…この俺の気遣いを台無しにするとかいい度胸過ぎるだろ。




「だってシュウさんの近くの部屋とか無理ですよ!?そんなの毎晩夜這いしまくるにきまってるもの!!好き!!!夜這いしてずっと寝顔見たいです!!でも毎日は心臓持たないから二日に一回!」



「なぁ花子俺の事好きすぎるのも大概にしろよいい大人なんだから自制くらいできるだろ夜這いは俺がするから花子は禁止だ。」



「逆巻邸に引っ越してきてその生殺し宣言はあまりにもひどいですシュウさん!!!天使の寝顔見たいですようわん!!」




くそう。やっぱりそういう理由か。
花子が俺から極力離れたがってる理由なんてどうせ俺の事が好きすぎるものだって思ってたら予想通りだったし
俺と彼女の会話というか阿呆すぎる痴話喧嘩を目の当たりにして三つ子の腹筋が崩壊したし、スバルはいつもこれを見てるから呆れて溜息だ。



「ちょ、ちょっと何シュウ、このビッチちゃん…っおも、おもしろすぎ…シュウの事好きすぎ…て、天使の寝顔…ぶふっ」



「うるさい黙れライトさりげなく花子に近付くんじゃない。」




ゲラゲラと一通り笑い転げたライトがひょこっと花子のすぐ隣を陣取り涙をこらえながら彼女の肩を抱く
瞬間、俺の胸の中に何かがぶわっと溢れだして少し強引に考えなしに花子をライトから引きはがしてそのまま強く彼女の体を抱き締めた。
くそう…この気持ちはあれだ、嫉妬と焦りだな。
ちょっと花子が他の奴に触れられただけでこうなるとか俺も花子の事言えない。大概だ。




けれどここで自分のやらかした失態に初めて気付いてしまった。
…やばい。勢いに任せて花子の事、抱き締めてしまった。


バっと反射的にスバルを見れば彼が顔面蒼白でその場から一目散に何処かへ走り抜けたがもう遅い。
花子はぐいっと俺を押しのけてそんな可哀想すぎる末っ子の後を物凄いスピードで追いかけていってしまった。
以前の光景を知っているアヤトはニヤニヤと楽しそうだが残りの三人は首を傾げるばかりだ。




そして本日もお約束の如く響き渡るのは愛しの彼女ではなく末っ子の悲痛な断末魔だ。




「ばっかおま…っシュウに俺に抱き付くのやめろって言われて…いいいいいってぇぇ!!いてぇって!!!ホント痛い!!!すいません俺何かしましたか!?酷過ぎるこの仕打ち!!!」



「シュウさんが弟君に触れられた私に焦ってやきもちとかもうホント天使は一々することが可愛すぎて私はいつだって辛いすきいいいいい!!!!」




…………。




「えーっと、シュウ。とりあえずその花子、ちゃん?の理性とスバル君の腰の為に部屋はちょっと離した方がいいんじゃないかな…?」



「………絶対手出すなよ。俺のだからな。」



「出したら僕達の腰も折られちゃいますよ出せないですよ。」




引き攣り笑いを浮かべながら提案してきたライトに溜息交じりにもう一度釘をさすと
カナトがクマのぬいぐるみをぎゅっと強く抱き締めながらそう言った。


そして何処か真剣な表情なアヤトがじっとスバルと花子がいるであろう方角を見つめて何かを決意したような顔でカナトとライトに呟いた。



「おいヒステリー、ヘンタイ。逆巻スバル先輩に腰の守り方教わりに行くぞ!!このままじゃいずれ俺様達の腰も粉砕されちまうかもしれねぇ…」



「おいアヤト。スバルは弟だろ、先輩って何だ。というか格好良く決めてるみたいだけど台詞は全然格好良くないからな。」



大きな溜息をついていつになく真剣な表情の三人を見つめる。
…俺が牽制しなくても花子とスバルのこのやり取りを先に見せればよかった。
多分この三つ子は花子に手出しはしないだろう。
誰だって自分の腰骨はかわいいもんだ。




「とりあえず花子を宥めてくる。…部屋はそうだな、一番端にするから荷物全部放り込んどけ。」




小さく呟いて少し足早に彼女の元へと赴く俺は彼氏と言うよりかはどちらかと言えばスバルの母親のようだ。
あれだ、「ちょっとウチの子苛めないでくれます?」状態だ。


けれど忘れてもらっては困るのは俺が花子とスバルを引きはがすのは花子が俺を好きすぎて他の男に抱き付くのが気分悪いからである。
ん?なんか言っててちょっと意味が分からない。




取りあえず、花子と一緒に暮らすことになったが
彼女が俺の事好きすぎて距離はとんでもなく遠いままとなってしまった。



くそう、頼むからちょっとは俺の事嫌いになってくれ。



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