18:俺だけの


「…そうですか、シュウさんは私がいないときは彼女で以下略…」



「ぶっ飛んだ誤解をするんじゃないこの馬鹿花子」



「えっと…」




俺の隣で真顔でそんな事を言いだす最愛にでかい溜息を吐いて
思い切りその空っぽそうな頭にげんこつを降らせれば「痛い!ご褒美!!」とか訳のわからない言葉が出たのでもはや怒る気にすらならない。
花子は基本俺に何かをされるというのが嬉しいらしく内容は二の次のようだ。
そしてそんな俺達を見つめるユイは困惑気味に苦笑してる。




「可愛い!!こんな可愛い女の子が既に逆巻邸にいたにも関わらず私を恋人にしてしまったシュウさんはもしかしたら眼球を取りだして丸洗いしなければならないのかもしれない!!」



「おい花子それは俺にもあんたにも失礼すぎるだろ」



「わわわっ、」




ぎゅうぎゅう、ベリッ!



花子は勢いに任せてユイに抱き付いたのでイラッとした俺はすぐさま彼女を引きはがしてしまった。
くそう、何で女にまで嫉妬してんの俺。
それも全部花子が滅多に俺に抱き付いてすら来てくれないのが悪いのだ。



そう言えば弟達には会わせたけどコイツにはまだ会わせてなかったと思い、すごくめんどくさかったけれど
また紹介せずにユイに会ってしまってキノコ生えるレベルで落ち込まれた挙句「シュウさんが女子高生囲ってた」とか訳のわからない誤解されたら
そっちのが面倒だから重たい腰を上げて対面させることにした。

……最近花子の思考回路が読めてきた自分に呆れる。



「ええと、シュウさん…この人は…?」



「………花子。俺の彼女。これから此処に住むから。」



「しゅしゅしゅシュウさんのお口から私が彼女とか…う、うううう幸せすぎてもう…」



「……彼女じゃなくてシュウさんの信者さんではないんですか?」




ユイが首を傾げてそう言うのも頷ける。
だよな、傍から見ればそうなるな。
だって今も只俺が「俺の彼女だ」と紹介しただけだって言うのに感激の余りボロボロ泣いてしまっている。



あのさ…あんたが俺の最愛になってから結構経ってると思うんだけど?



呆れかえって溜息をついていれば花子がユイの頭を優しく撫でながら
いつの日かの、そう…満月に俺に見せたような穏やかな笑顔で微笑みかけたからユイの顔が一気に紅く染まる。



「先程シュウさんにご紹介いただきました花子といいます。女の子二人だけみたいなので仲良くしてね?ユイちゃん」



「は、は、は…はいっ!」



ユイは花子のそんな優しい態度に感動したのかすごく嬉しそうに笑って花子の手を握る。
けれどそれを見せつけられた俺としては溜まったもんじゃない。




「花子、」



「?シュウさ…!?」




彼女の背中をぎゅっと包み込む様に抱き締めれば相変わらずビクリと体は揺れるけれど
今、手放してやれるほどの余裕は俺にはない。
だってその顔…その顔は、




「それは、俺だけに…して、」



少し声が震えた。
でもそれ位動揺してる自覚はある。
その顔…全部を包み込んでくれるような、安心させてくれるようなその顔は俺だけのものにしておきたいんだ。



すごくガキみたいな独占欲だけど、それでもそうしていたい。
大人げないとは分かっていても譲れなくて、抱き締める腕に力を込めたらどうしてだか花子の表情を見ていたユイがまたにっこりと笑った。



「花子さんは、大人なんですね。」



「何、どういう事。」



「ふふ、女同士の秘密です。」



ユイの訳のわからない言葉に質問してもはぐらかされてしまい頭に疑問符が残る。
きっと俺が花子を抱き締めたときに変わった彼女の表情を見てそう言ったのだろうが
生憎今のこの態勢では花子の顔が見れない。



代わりに返って来たのは花子の震え、上ずった声での俺への賛美。




「あ、ああああ…可愛い…シュウさんホントに可愛いやはりシュウさんは天使の類だけれど背中に羽がないから天界から落ちてきたときに失くしたのですねエンジェル!!」



「………おいユイ。これのどこが大人なんだ俺の事が好き過ぎるバカ女じゃないか。」



「あは、あはは…」



遂に我慢の限界だったのか俺の腕の中でじたじた暴れながら「スバル君の腰!!」とまた末っ子の腰破壊フラグを立てた最愛を逃がさまいと
思いっきり腕に力を入れて抱きとめれば沸騰するくらい体が熱くなってしまったので思わず苦笑してしまった。
くそ…なんだよ。ホント花子は俺の事好きすぎる。




だからこの時大暴れする花子と押さえつける俺のやり取りを見て
ユイがどこか羨ましそうな、微笑ましそうな目で見ていたのには気づかないままだった。



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