2:復唱さんはいっ!


「スバル君、スバル君、人間って妖精とお付き合いできるんだね、あ、違った天使だっけ?あれ?神様?」



「………俺の兄を妖精とか天使とか神認定するなよ気持ちワリィ。」



「…………はぁ。」



何で俺の彼女がスバルを抱き締めて俺の事惚気てんの?
ていうか妖精とか天使とか神とか本気でやめてくれないか。
あの日から俺と花子はすぐに恋人同士になったけれど全然近付いてこない。
彼女曰く「美し過ぎて恐れ多い」らしいけれど
…ぶっちゃけスバルも美形の部類に入ると思うのだが何でスバルには何の抵抗もなしに抱き付いてるんだ。



「花子、」


「ぶはぁ!妖精が私の名前を呼んだよ!どうするスバル君!!遠まわしに幸せな気分のまま死ねって言われてるのかな!?」


「いででででででで!!!」



俺が彼女の名前を呼べばスバルを抱き締めていた腕にとんでもない力が入ったのか末っ子の断末魔が響き渡る。
全く…出会った時に少し違和感があったけれどやっぱりそうか…



花子は俺の事を死ぬほどと言うかそれどころではないレベルで好きらしい。



あの日、雨が酷かったあの日は花子としてはとんでもなく自身のテンションを抑えていたらしいが
俺が彼女に恋人になれと言った瞬間何か…うん、怖かったしな。
けれどもうどうしようもない。
俺もあの短い時間の間に花子に驚く位惹かれてしまっているんだ。



「花子…俺の事、名前で呼んで。」



「………聖なる呪文を唱えろって仰るのですか?」




………俺の名前ってそんなに神聖なもんなの?
そしてなんでお前俺に敬語な訳?成人済みの社会人だろうが。
スバルにはタメ口でそんなスキンシップ取ってるのに
彼氏の俺には敬語でなんにもなしで名前すら呼んでくれないの…?
そんなの………すごい不服。



「ほーら、花子……な?」



スバルを抱き締めている腕を強引に解いて俺の方へと引き寄せる。
そしてずいっと彼女へと顔を近付けて優しく促せばきっと直ぐにでも俺の言う通りだ。
…と、思っていたが花子は俺の斜め上を行ってしまう。



「……ん、」


「…?花子、聴こえない…もう一回。」


「じゅうざぁぁぁん!!!!」


「オイ俺は“シュウさん”だ。濁音を消せ濁音を。」



俺の腕の中で興奮の余り涙をボロボロ流しながら叫ばれるのはオシイけれど俺の名前ではなかった。
…ちょっと、コレは本気で先が思いやられる。



「ホラ、もう一回。“シュウさん”」


「じゅうざん!!!」


「シュ・ウ・さ・ん」


「じゅ!!!!!」



おい、もはや一文字じゃないか。
今は“さん”を外せとかそんな事を言えるレベルではない。
とりあえず…とりあえずまともに俺の彼女に名前を呼ばれたい。


その一心でこの日は一日中花子に俺の名前を教え込むことになってしまった深夜。




(「じゅじゅじゅじゅっ!!!(もうやっぱりシュウさんって奇跡の生き物だと思わない!?スバル君っ!)」)



(「…あーはいはい。お前がそう思いたいならそう思ってろ。」)



(「…おいスバル、何で花子の言ってる言葉が分かるんだ。」)



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