26:愛しき騒音


あの日から数日。
結局花子は俺と同室は心臓が持たないから嫌だと言って
盛大な大喧嘩の末互いが500歩位譲り合って隣同士の部屋へと移動した。



「いいか。絶対にノックされてもすぐに出るなよ。誰か確認しろ。特にレイジ。」



「ううう…も、もう大丈夫ですよ。レイジ君あれから全然仕掛けて来ないですし。」




それでもだよ。用心に越したことはない。
じっと威圧感たっぷりで花子に詰めよれば「綺麗なお顔が近付いてくる」と真っ赤になりながらも苦笑されてようやく頷かせた。
全く…ずっと一緒に居てやる事が出来ないから自衛はキッチリとさせなければならない。



小さく息をついて彼女の部屋の扉を閉じてクソ怠いけれど学校へと向かう。
まぁ学校へ向かったとしてもやる事は一つなんだけれど。






「………ねむい。」



屋上の適当な所に寝転がって誰も聞いていないけれどひとつ、言葉を漏らす。
今までは別に何も感じなかったけれど花子が傍にいないのって結構淋しい。



「あー…早く授業終われ。今すぐだ。」



ゴロリと寝返りを打って受けていないけれど長々と続く授業の馬鹿に悪態をついて瞳を閉じた。
早く。早く帰りたい。
早く帰ってまた「大好きなシュウさんのハグとか勘弁してください死んでしまう!」と叫ぶ花子を抱き締めて泣かせたい。




「……や、ぶっちゃけもう少し先には進みたいけど。」




ボソリと呟いた俺の小さな欲望は誰にも聞かれる事無く闇に溶けて消えた。





のそのそと学校を終えていつもならそのまま自室に入りすぐ睡眠の続きを貪るのだが
今日は真っ先に花子の部屋へと向かう。


…向かうのはいいが花子の部屋からガタガタと慌ただしい音と、扉に近付く軽い足音が響いて俺は小さく息を吐き、ビキリと青筋を立てる。
…あいつ、俺の言いつけ全然聞く気がない。




コツコツと足音を立てながら彼女の部屋の前へとやって来れば
まるで自動ドアの様に勢いよくその扉が開かれて現れたのは俺の最愛大馬鹿野郎。




「しゅ、シュウさん!おかえりなさ…ごふっ!」



「俺は確かノックされてもすぐに出るなと言ったよな?何でノック以前に飛び出してきてんの?花子の頭に脳みそちゃんと詰まってるか?ん?」



「いたたたたたたごめ、ごめんなさいシュウしゃんいたたたた」




勢いよく飛び出してきた花子に渾身の頭突きをかましてやって
そのままグリグリとこめかみを拳で攻撃してやれば涙目になって謝罪の言葉を口にする花子に呆れかえって溜息が出る。
ったく、ついこないだあんな事があったのに何で当の被害者であるアンタがこんなに無防備なんだよ。




すると花子は先程まで俺に攻撃されていたこめかみをさすりながら
すごく嬉しそうに微笑んだのだ。




「だって足音で大好きなシュウさんだって分かったので…えへへ。」



「………花子、それは反則。」




こいつ、時々こういう殺傷能力あり過ぎる殺し文句言うのやめてくれないだろうか。
顔が馬鹿みたいに熱くなったからそれを隠すように彼女をぎゅうぎゅう抱き締めて肩口に顔を埋める。


くそう、今より先に進みたいけどアレだ。
花子も慣れなきゃいけないだろうけれど、俺も彼女のこういう可愛いとこに慣れないと無理かもしれない。




「花子、だいすき。」



「わ、わた…っ私も大好きというか寧ろ愛してるうう!!!!」



「うるさい。」




俺の告白に感激の余り大声で叫び散らすもんだから
今肩口に顔を埋めてる俺の耳にダイレクトに花子の雄叫びが入ってきて耳を塞ぎたくなる。



でも、うん。
こういう騒音は…うん。



わるくないかもしれない。



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