27:おそろい


「そういや花子ってあんまり着飾らないな。なんで?」



「やっぱり普段お仕事ですから、あまり派手な格好出来ないんですよ。」



「ふーん…」



じっと向かいのソファに座る花子を見つめてそう問えば
ちょっと残念そうに笑う彼女に気のない返事をする。
ていうか恋人同士なのになんで向かいに座ってんだ。隣に来い隣に。



花子は普段からあまり着飾らないというか少し地味。
別にキライって訳じゃないけど今まで周りに群がってた女はキツい香水とか派手な化粧、装飾品付けて
俺に媚び売りまくってたような奴ばっかりだったので実は新鮮だったりする。




けれど残念に笑うって事は花子もホントは着飾りたいって事だよな。




「………よし。」



「シュウさん?」




ガタリと立ち上がって向かうのは気は進まないけど無神家だ。
多分アイツならアレ、持ってそうだから。



「ちょっと出かけて来る。不安だから部屋の前にスバル置いとけ。」



「お、俺は番犬じゃねぇんだぞ!!」


扉に手をかけて振り返り防犯対策を口にすれば言葉は乱暴なくせにすぐ現れてしまう末っ子に苦笑。
いやいやスバル。お前筋金入りの番犬みたいだけど…?
でもやっぱり花子が心配なので奴らの棲みかへ向かう足は無意識のうちに早くなってしまい、そんな自分自身にちょっと笑ってしまった。







「まってまってまって下さいシュウさんコレ無理…ホント無理ですごめんなさいやめてください私死んじゃう。」



「ん、ちょっと動くな…ホラ、大人しくしてろ。」



「んんんんんんん」




足早に無神家から帰って来た俺は今花子の前に跪いて真剣である。
そして花子はと言うと顔を真っ赤にしていつもの様に涙をためて必死に動かないようにと頑張ってる。



俺の右手には彼女の白い綺麗な足。
そして左手には黄色のネイル。




「ペティギュアなら仕事でも問題ないだろ?」



「だ、だからと言ってシュウしゃんが私の汚い足持っちゃうとかもうホント無理なんですけど!!!!?」



「汚くないし。花子、あんたちょっと自分の事卑下しすぎじゃない?ん、」




ちゅっとまだ塗っていない足の指に唇を落としてやればぼふんと足先まで真っ赤にしてしまった花子に苦笑。
おいおい、俺が持ってるネイルは黄色なのに何で足先まで真っ赤なの?



無神家の次男アイドルならこういうの沢山持ってるだろうと思った俺は
問答無用で無神家に殴りこんで次男の…コウの胸倉掴んでネイルがどこにあるか問いただし、100色くらい持ってこさせたけれど
結局持ってきたのはこの色一つだ。




「ったく…俺も大概かも。」



「?シュウさん?」



「なんでもなーい」




首を傾げる花子に小さく笑ってそのまま彼女の爪に黄色を落としていく。
自分の彼女の足に自身のイメージカラーを選ぶって…ちょっと俺、乙女みたいだな。



「ん、出来た。」



「わぁ…すごい」



全ての爪に俺色を落としてようやく解放してやれば
綺麗に塗られた自身の爪先に感嘆の声を漏らす花子に何度目かわかんない苦笑をしてしまう。
後はこれで完成…



「花子、もう一回足出して。」



「嫌です」



「………彼氏の言う事はちゃんと聞け。ったく、」



プラプラと嬉しそうに足を揺らす花子に手を差し出してもう一度足を貸せと言えば
さささとひっこめてしまうから小さく溜息を吐いて無理矢理ぐいっと引っ張ってやると「ふぎゃ!」と間抜けな声が花子の口から出た。
あ、また顔赤い…だから慣れろって、俺に触れられるの。



そっとそんな可愛い反応をする足に帰りのついでに買ってきたものを履かせて俺は満足に微笑んだ。




「ああ、やっぱり似合ってる。」



「…っ、…っ」



彼女に履かせたのは黄色のペティギュアによく似合う俺好みのミュール。
大袈裟にヒールが高いって訳じゃないから普段でも履けるはず。


コウからネイルを強奪したのはいいけど、そう言えば花子は着飾ったことがないと言っていたから
こう言ったこじゃれたものも持っていないのではと思ってついでに…あくまでもついでに買ってきてしまった。




…正直女に何か贈るのってこれが初めてかもしれない。




「花子に似合うって思って勝手に買ってきたんだけど…気に入らないなら捨ててもかまわな、」



ちょっと気恥ずかしくなってホントは大事にしてもらいたいけれど素直じゃない言葉を口にすれば
彼女の足は先程より早くさささと引かれてしまい、ぎゅっと足を包み込むような態勢で丸まってしまった花子に首を傾げる。
顔を埋められてるから表情は分からないけど、耳はヤバいくらい赤い。




「だ、だいじに…しま、す…う、…ふぇ…ぐすっ」



「…………ん。」




ブルブルと小刻みに震えだした体と涙混じりの声に俺の方が恥ずかしいようなくすぐったいような気持になってそっけなく返事をする。
でも、うん。花子は今顔を伏せてるから分からないだろうけれど、今の俺の顔…花子に負けない位真っ赤だと思う。




なんだろう、こういうの…うん、ホントくすぐったい。




「なぁ花子、ええと…ちょっとお願いがあるんだけど。」



「?」



ひとつ咳払いをして未だに感動で泣いているであろう花子に
自分が持ってたネイルをひとつ、差し出した。






「お?花子足元すげぇ洒落てんな。どうしたんだよ。」



「て、天使と言うか妖精と言うか神の施しを受けて私もうホント足元だけなら世界一美人な自信あるのスバル君…っ」



「…あー。シュウからの贈りもんな。ハイハイ、天使じゃねぇし。」




それから家にいるときは彼女はずーっと俺のプレゼントしたミュールを履いてご機嫌である。
チラリと見える黄色のペティギュアが見える度に胸がじわりと暖かくなる。



そして自身の親指を見て誰にも気づかれないように苦笑。




俺の左手の親指に塗られたガッタガタの黄色いネイル。
俺も花子とお揃いにしたくて彼女に塗ってと頼めば緊張と感激で震えながら手を取ってガタガタになりながらようやく頑張って塗ってくれた一本だけの大事な黄色。




「あー…うん、くくっ」




ちょっと嬉しくなって1人で笑えば俺の声に気付いた花子がこちらを向いたから
わざとらしく塗ってくれた親指の爪にちゅっとキスをして見せつけるとゆでだこなんて比じゃない位真っ赤になってぶっ倒れたからまた苦笑して彼女を抱え上げた。




うん、こういうお揃いとかどうでもいいし下らないって思ってたけど
花子となら、なんか…いいかも。



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