28:快晴
「花子、触って?」
「新手の拷問ですか私の事嫌いなんですかシュウさん」
会話が全く噛みあってないが俺と花子の間ではもはや通常運転なやり取りである。
無理矢理その手を掴んでぐっと引き寄せ自身の胸元へと当てると「ふぎゃ!」と軽い断末魔。
彼女に自分を触れさせて叫ばれる俺の気持ちを誰か考えてくれた事があるだろうか。
「ああああシュ、シュウしゃんお肌すべすべ…一般吸血鬼なのにこのクオリティは罪ですというか一般吸血鬼じゃなかったお貴族吸血鬼だったうわああ」
「いい加減慣れろってもう500回は言ってるんだけど?花子…殴られたいの?」
「ご褒美!!」
「違う」
コツンと軽く額を弾けば嬉しそうな顔。
ったく…傍から見たら真正マゾヒストにしか見えないぞ花子。
小さく息をついてじっと彼女の目を見つめるとぶわっとその瞳に涙が溜まる。
…目を合わせるだけで感激するな馬鹿。
「あのな、花子…花子も俺に何かさせると嬉しいんだろ?俺もおなじなんだからホラ、花子から俺に触れて?」
「え、え、え、え、あ、え?」
固定していた彼女の手を解放してやってゆるゆると両手を広げて待ってやれば
戸惑いまくって顔面真っ赤な彼女が10分後ようやく自身から距離を詰めてきてくれた。
…俺の気持ちが伝わるのに10分もかかるとかすげえ不服。
「えっと…、し、失礼します?」
「失礼じゃないから、はやく。」
おずおずと手を伸ばしてきた花子に笑ってしまうとぼふんと顔を真っ赤にしてしまった。
そしてそのままそっといつかの日の様に俺の体を小さな手と体で包み込む。
「……ん、やっぱり、花子から、だな。」
「シュウさん?」
「こうして花子から触れてもらうと…なんか、ねむ、く…ん」
ふわりふわりと体自体が宙に浮きそうなくらいの心地良さ。
そんな感覚の中意識を落とさないようにと自分からもぎゅっと花子に抱き付けば今度は先程のような断末魔は聞こえない。
どうしてだろう…もしかしなくとも花子が俺の心地よい現状を壊さまいと必死に叫ぶのを我慢してるのか?
「花子…あんた、健気すぎ。」
「だ、だってシュウさんすっごく気持ちよさそうなんですもん…っ、そ、それを私の叫びで壊すなんて…っ!!」
クスクスと小さく笑えば震える声の回答にもはや嬉しくて俺の目はしっかり覚めてしまったけれど
今はまだこの心地いい感触を味わっていたくてガキみたいなバレバレの嘘をひとつ。
「花子、まだ眠い…一緒に寝よう?今、あんたを離せば一生不眠症な気がする。」
「一生!?そんなの永遠じゃないですか!!シュウさんの目の下に隈とか無理ですよ!?それはいけません夢の先までお供させていただきます!!」
「ぶはっ!」
俺の嘘に必死になり過ぎた花子に思わず吹き出して体を揺らせながらも必死に笑いをこらえる。
ああもう、俺の彼女が俺を好きすぎてホントつらい。
「花子、だいすきだ。…愛してる。」
「よし、死のう。」
「俺に愛されて昇天するんじゃない。ばーか。」
ずるずると彼女に引きずられながら心のままを言葉にすれば
真顔で決心してしまう花子に悪態をひとつ。
いつからか、闇に生きてるはずなのに胸の中に太陽が降り注いでいる事に
今の俺はまだ気付かないままだった。
「花子のこと好きすぎてツラくなりそう。」
「末っ子、末っ子どこですか今すぐ彼のカルシウムを粉末にしないとシュウさんへの愛が溢れて苦しい。」
「だーめ。今日は逃がさないんだからな。」
ちゅっと彼女に運ばれている態勢のまま唇にキスをすれば
「びゃっ!」と何かが潰れた音が屋敷中に響き渡ってしまったが、
きっとこれは彼女の乙女心的なアレがぐしゃっと潰れたんだと確信してしまうあたりもはや花子が俺になれるんじゃなくて
俺が花子に慣れてしまってると思うとそれもなんだか負けた気分で不服に思ってしまったのは内緒の話。
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