3:初めてのごめんなさい


「………なぁ」


「はい!何ですか!?眠いですか!?それとも血が欲しいのですか!?」



「いや、…っておい、道のど真ん中で脱ぎ始めるな痴女かお前は」



「妖精さん限定で痴女な自覚はあります。」




真顔で答えるな。真顔で。
今は花子とデートと言う名の散歩中なのだがこの距離にすっごい不服。



「なぁ花子は江戸時代の女な訳?なんで俺の隣歩いてくれないの?三歩下がるとか…淋しいんだけど。」



「だって隣とか私その美しい光で消し炭になってしまいますよ。」



だから…真顔をやめろと言っているんだ。
さっきからずっと花子は俺の後ろをちょこちょことついてくるだけで全然隣に寄ってこない。
あのさぁ…俺としてはお前と手とか繋いでゆっくり道を歩きたいんだけど?


チラリと彼女を振り返っても一向に俺の隣へと来てくれる気配はなくて
少しがっかりしながらフラフラと再び足を進める。
…花子は俺の事好きって言いまくるくせに全然俺に近付いてこない。



その事実が悲しくて俺は下を向いて歩いていたから
目の前の信号が赤になっていた事に気付かなかった。



「………シュウさんっ!!」


「!?花子…!?今、なま…ぅわっ」



彼女の口から出た正しい俺の名前に驚いて勢いよく振り返ったけれど
驚く位強い力で引っ張られて花子の腕の中へと引き摺り込まれてしまう。
瞬間、背後から車の通る音が聞こえて危なかったのだとのんびりした思考が回る。



と言うか今はそんな事より…



「花子、もう一回…もう一回俺のなまえ、……花子。」



「う…っ、うぅ〜…しゅ、シュウさん…っ」



自身の名前をとっさにでも呼んでもらえた事が酷く嬉しくて
少しばかり浮ついて、もう一度呼ぶようにと言いたくて彼女の顔を見れば
その顔はもう涙でベタベタで、更にボロボロと涙を流してしまっている。



「ごめん…花子、心配…したんだよな…怖かったんだよな…ごめん」



「シュウさん…シュウさん…うぇぇぇぇん!!!」




酷く動揺してしまっている彼女を宥めようと強く抱きしめてやると
必死に俺に縋り付いて俺の名前を連呼してしまう花子にとんでもない罪悪感。
名前呼んでくれたことに浮かれてる場合じゃなかった。



倒れ込んだまま二人でぎゅうぎゅうと抱き締めあって未だに流れ続ける彼女の涙に不謹慎だが嬉しくて笑ってしまう。
…だって仕方ない。こんな事でこの世の終わりのような喚き方とかされた事、なかった。



「なぁ花子…お前、俺の事本当にだいすきなんだな。」



「うん、うん…っだいすき…だいすきだから…絶対しなないで…っ!」




もはや余裕がないのか幼い口調で必死に懇願してくる花子が愛おしくて愛おしくて
そっと彼女に気付かれないように髪にキスをした。
きっと気付かれたらまたいつもの様にはしゃいでしまうから。




ああもう、こんなに俺の事だいすきならもううっかりなんとなく死ぬこともできやしない。



面倒くさいはずなのに、俺は心のどこかで酷く喜んでしまっている気がした。



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