30:ひらいたこころ


「ええと、うん。言いたいことは山ほどある。」



「えへへへへへへ照れる天使程可愛いものはないと私が言った気がします可愛い!!」



「……………。」




あれから気が付けば初めて彼女に会った時みたいに自室のベッドの中で…
ちらりと視線を天井から横へと向ければ満面の笑みというかだらしない花子の顔が視界いっぱいに広がって長い溜息をついて今に至る。



目の前には相変わらずによによと嬉しそうな最愛。
そして俺は体を横にしたままシーツを頭まで被ってチラリと彼女を見つめている状態だ。



「1人で魔界に忍び込むって何考えてんの後ドレスどうしたそしてどうやってここまで俺を連れてきた。」



「シュウさんが大好きだからです!」



「答えになってない馬鹿。」



左手をシーツから伸ばして額を弾くとまた「ご褒美!」って馬鹿な言葉が響く。
答えになってないけどまぁ花子としてはそれが答えなんだろう。
俺の事好きじゃなきゃそりゃ自身を喰らう化け物の巣窟に1人で忍び込んでそのまま俺を会場から連れ去るなんて事、しないもんな。




「ていうか何でさっきからそんな嬉しそうなの…」



「だってシュウさんが…えへ、えへへ〜」



「俺が、なに。」




いつもだってそりゃ俺と会話したりするときは嬉しそうな顔してるけど
今日はいつも以上にご機嫌というか幸せそうににやにやしてるから理由を問えばその顔はますますだらしなくなる。
そして紡がれた言葉は俺を赤面させるには十分過ぎるものだった。




「シュウさんが初めて私に弱音を言ってくれたんですよ?嬉しいに決まってます!!」



「…………ばーか。」




ぼんっ!と自身の中で変な音が聞こえた気がしたので、先程よりシーツを更に深くかぶって団子状態になって花子から頭まで全部隠した。
けれどそんな俺を見ても彼女は「ゆきうさぎさんみたいでかわいい!」と余計恥ずかしい事を言う。
…確かに我儘や欲求は沢山してきたかもしれない。
けれど自身の弱い部分は…うん、彼女に…いや、誰かに見せたのはこれが初めてかもしれない。




だって今までそんな事、許された事が無かったんだ。





「…………花子、」



「なんですか!?ゆきうさシュウさん!!」



「うるさい。」




シーツにまるまるくるまったまま彼女の名を呼べばとんでもなく可愛い呼び名で返されてしまったから低く唸る。
けれど花子はそんな俺の次の言葉を只々静かに待ってくれるからホント…いつも馬鹿なくせにこういう時大人になるの、ずるい。




「…弱音、聞いてくれて…叶えてくれて、ありがとう。」




聞こえるか聞こえない位の小さな言葉だったけれど
ふわりとその後優しくシーツ越しに頭を撫でられたからどうやらそれは彼女に届いていたようで
良かったやら恥ずかしいやら複雑な気持ちで余計に顔を赤くしてしまう。
ああもう、何か俺…乙女みたいだ。




「こちらこそ、弱音を吐いてくれるまで私に心を開いてくれてありがとうございます。シュウさん。」



「………うん。」



「だいすきですよ。」



「………う、ん。」



花子の言葉に自分が心のうちを曝け出せてしまうまで彼女に溺れてるんだと自覚させられて
何だか何に対してかは分からないけど負けた気になってしまい、悔しくて…でもどこか嬉しくて
そのまま手を伸ばして彼女の体をベッドの中へと引き摺り込んでぎゅっと強く抱き締めた。




「花子、すき。」



「私はだいすきです。」



「じゃぁ俺は愛してる。」



「どれくらい愛してますか?」




普段ならこんな事したら叫び散らして失神してしまうくせに今は優しい笑顔な最愛にもっと甘えてしまいそうだ。
…まぁそれでもその顔はこれ以上ないって位赤いけれど、それは今俺もおなじなのでおあいこだろう。




「そう、だな…“トクベツ”をあげれる位?」



「じゃぁおそろいですね…えへへ」




花子に捧げる事の出来る“トクベツ”が何なのかは今の俺には分からないけれど…
それ位彼女の事を愛してしまっていると告げれば嬉しそうに笑うその瞳はとても穏やかで、今は自分から彼女に触れているのに何だか触れられている時みたいに体の力が抜ける。



「シュウさん…何だか私、眠いです…ふわふわします。」



「ん…俺も、寝よっか。」




うつらうつらと互いに心地よい微睡の中
ゆったりと言葉を交わして瞳を閉じた。



どうしたんだろう…
花子にもこの微睡が伝染してしまったのだろうか…



今はそれがなんなのか、よく分からないけれど。



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