4:彼女の香り


「……………」



「…震源地、花子。マグニチュード5000って感じ。」



「だだだだだだって仕方ないですよシュウさん無理です無理です私にはレベル高いですコレ!!!」




今俺はガクガクと激しく小刻みに揺れてしまっている。
そして花子は相変わらず顔を真っ赤にしてボロボロと泣いてしまっている。
…や、別に花子を無理矢理襲ってるとかそう言うんじゃなくて。



「なぁ、たかが膝枕でなんでここまで震えてんの。そんなに俺の事きら…」



「だってだって私のぶよぶよ肉まみれの膝にふわふわエンジェルヘアーの吸血天使がこてんって可愛く乗って…あっ、」



「わかったわかった大好き、大好きなんだよな俺の事。だから落ち着けせめて泣くのをやめろ」




今にも卒倒しそうな花子を落ち着かせるためにもぞもぞと膝の上で動いて
ぎゅっと腰に抱き付けば逆効果で、更に大興奮してしまった彼女は勢いよく後ろへとのけぞりソファの縁に頭を勢いよくぶつけてしまった。
………相変わらず俺はすっごい愛され過ぎてる。
そして吸血天使ってなんだよ。


折角のリラックスタイムもこのまま花子が盛大に震えてしまっては台無しだから
残念だが諦めてゆっくりと起き上がって彼女の目の前に顔を持っていく。
するとそのうれし涙は更に勢いよくあふれ出してしまう。



「うううう〜しゅ、シュウさん綺麗…格好良い…可愛い…だいすき。ぐすっ」



「花子に顔褒められるの、嫌な気分はしないけど…俺の顔見て泣かれるのは正直ヤダ。」




不機嫌に顔を歪め、素直な気持ちを口にすればどうしてか花子は勢いよく立ち上がり
そのまま無言でスタスタと何処かへ行ってしまう。
…ん?あの方角は。
少し嫌な予感がしたけれど、それは数秒後悲しい現実へと変わってしまった。



「いいいいってぇぇぇぇえ!!!?ちょ、花子おま…っはな…っぐはっ!!!!」



「スバル君のお兄ちゃん一々言う事ぎゃわいい!!!!!ギルティ!!!可愛い罪を背負った逆巻シュウ愛おし過ぎて生きるのつらい!!!」



そんなスバルと花子の断末魔が屋敷中に響き渡ってしまい俺は長くため息をついて哀れな末っ子を救出にし怠い足を動かす。


だから、なんで、俺にときめいたら、俺にじゃなくて、スバルの腰をへし折りにかかるんだ。


実はすっごいスバルに妬いている自分をひた隠しにして少しだけ早い足取りに自分でも驚く。



「おい花子……うわ、」



「お、おいシュウ…も、もう頼むから…花子をときめかせるな…俺が死ぬ…っ」



「うぅ…シュウさん…シュウさん好き…しゅきぃ…らいしゅき…ぐすん」



スバルの部屋の扉を開ければそこにいたのは瀕死のスバルと
そんな彼の腰を綺麗にサバ折にしている俺の彼女。



「おい、花子…それ、シュウさんじゃないから。こっちがシュウさんだから。」


「んああああ!?しゅ、シュウさんの香りが私にダイレクトアタックを仕掛けてきた!!あ、あ、あっ…ころ、殺される!!」



自分の彼女が他の男に抱き付いているってのは正直いい気分はしない。
なのですぐに花子をスバルから引きはがしてそのまま自身の腕の中に収め、彼女の顔を俺の胸に押し付ければ何ともムードのない叫びである。
まぁ、花子には悪気はないのだろうが…とりあえず死なないでくれよ?



「全く…名前は呼べるようになったのにこう言う事はまだ慣れないのか。」


「んあああああ!やっぱりシュウさん香りもすっごく素敵…こ、これ本当に私もう…んんん!」



興奮しきった花子から香るのは俺のものではなくて先程まで腰をバキバキに折っていたスバルのモノで
かなり…かーなーりイラッとした俺は少し強く、彼女の顔を俺の胸に押し当てた。
このまま末っ子の香りを消してしまって俺の香りに変わればいい。



「ねぇ花子…他の男の匂いなんかさせないで…?」


「………」



ガシィ!



「は?ちょ、おい…花子、…っ」



「んーんーんー!!!!」



俺の少しばかり出してしまった嫉妬心に暫く沈黙していた花子は何を考えたのか
顔を埋めたままぎゅっと俺の体を抱き締めてそのままぐりぐりと顔を動かすからくすぐったくて仕方ない。



「…何してんの?」


「えっと…シュウさんが怒っているので…あの、スバル君の香りを消そうかな…と、あの…はい」




語尾がだんだん小さくなっていったけれどその言葉は俺にしっかりと届いてしまって
すっごい可愛かったからそのまま抱き締める腕にぎゅっと力を込めれば断末魔の通常運転に苦笑してしまう。



ああもう、不意打ちでこういう可愛い事するの、ホントやめてほしい。
心臓ないけど心臓止まる。



それからというもの、花子がスバルに抱き付くと言う事をしなくなった…
なんて、現実はそんなに甘いものではなくて。



「んんんん!!シュウさんやっぱり素敵ー!!!」



「うおぉぉぉお!?いてっ、いってぇぇぇ!!!」



相変わらず俺の言動にときめいて花子はスバルに抱き付く。
変わった事と言えば彼女の右手にある消臭剤である。



違う。俺の言いたいことはそう言う事じゃない。



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