5:落ちたい
「………」
じりっ
「………」
じりっ
「………」
ちょんっ
「んああああ!?冷たく綺麗な指がわた、わたしに…私にふれ…っがふっ!!」
「はぁぁぁぁぁ」
先程から花子に一歩近付けば彼女は一歩下がりの攻防戦だったのだが
遂に壁に追いやってその頬にそっと触れれば断末魔だ。
くそ…車に轢かれかけたときや、以前俺が嫉妬心を出した時は自分から抱き付いて来たって言うのに
未だに花子は普段俺に近付いてこないし触れて来ない。
これが嫌われているのだったらへこみも出来るだけれど好かれ過ぎてコレなものだからとんでもなく複雑な気分である。
「花子はちょっとは俺を嫌いになるべき」
「無茶ですよ!!シュウさんのお父上が禁欲生活を5億年続ける位無茶ですよ。」
「俺はそんな世界の概念を覆すレベルの欲求をしてる訳じゃない。」
逃げ場を失くした花子の肩をガシリと掴めば縦に飛び上がらんばかりに揺れてしまう彼女にまた溜息。
だって仕方ない。お約束の如く花子は俺に触れてもらって嬉しかったのかボロボロ泣いてしまっている。
「なぁ、花子…」
「うぅ…シュウさん、シュウさぁぁん…」
「はぁ……ん、」
「んぅ!?」
感激の涙がボロボロととめどなく零れ落ちるけれど俺はその涙があまり好きではない。
感激だけの涙は俺と花子の距離が酷く遠い証拠だ。
きっと花子の中で俺はまだ雲の上の彼女曰く天使か妖精の類で…
対等の立場の“彼氏”ではないのだろう。
その事実がとんでもなく不服で、何度も何度も俺の名前を呼ぶ彼女の唇を塞いでしまう。
すると花子は大人しくなるどころかジタバタと大暴れしてしまう。
けれど今離してしまえばまたこの瞳から感激とか光栄の涙が零れるんだって思うと絶対に離したくなくてぎゅっと彼女の身体を捕えてしまう。
「んー!んーんんー!!!」
「んんっ…はぁ…花子…んっ」
落ちたい。
花子の中で俺が雲の上の生き物ならば今すぐにでもそこから落ちてしまいたい。
なぁ、どうしたら俺はお前の彼氏になれる?
こうして無理にでも距離を縮めてしまえばいい?
そしたら俺はお前に感激の涙じゃなくて幸せの涙を流させることが出来る?
「ん、…花子、…………花子?」
「…………」
「…やばい、やり過ぎた。」
感情に任せて彼女の唇を塞いでいたらもうピクリとも動かなくなってしまった体にようやく我に返る。
じっと花子の顔を見れば馬鹿にたいに真っ赤でグルグルと目を回してしまっている。
あーもう、やり過ぎた。少し大人げなかったと反省するけれど
ふと、ここで一つ疑問が沸き起こる。
「…花子って、年上だよ…な?」
何かいつもちょこちょこ俺の後ろをついて歩いて来たり
そわそわ離れたところで俺を見つめて時折目が合えばスバルの腰バキバキにしてるけれど
…それにこんなキスだけで意識飛ぶとか。
………ん?
「おーい花子、あんた、ホントは俺よりガキなんじゃないの?」
既にぐったりしてしまっている彼女を姫抱きにして俺の部屋だとまた起きたとき光栄ですとか言いながら叫ぶだろうから仕方なくソファへと運んでやる。
そして次目が醒めたときまた何か方法を見つけよう。
花子と俺の距離が近くなる…そんな方法。
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