6:不安を聴けるなら


「そう言えば花子は成人してるから酒とか飲むの?」


「私、お酒すごく弱くて…しかも性格変わっちゃうらしいので飲まないんです。」



「…ふーん、」



良い事を聞いた。
俺の質問に困ったように答えた花子をそのままに俺は使い魔にそっと支指示を出す。
勿論内容はこれしかない。



「一番強い酒、溢れる位買ってこい。」




今も花子は相変わらず俺を彼氏って認めてくれていない。
まだ天使認定だ。…くそ。
ならば今度はその酒って奴の力を借りようじゃないか。
性格、変わるんだろ?
そしたらこのシュウさん天使わっしょいしょいな性格も変わるって事だ。
いつもなら道具に頼るのは俺のプライドが許さないけれどもうそれどころではない。



こうなったら酔った勢いでもいいから俺に抱き付いて甘えてくればいい。





「…聞いてない。こんなの、全然聞いてない。」



「…ふふっ、ふふふ…」



今俺の傍には花子がいる。
強力な酒によって真っ赤な顔でニコニコと可愛らしく微笑んでいる。
けれど俺の背後は床だ。
床なのだ。



そう、花子が今いる場所は俺の真上。
即ち俺は今勢いよく彼女に押し倒された直後って訳である。



「ちょ、花子…はな…っい…っ!」



ギリリと彼女が追加んでいる手首に激痛が走る。
骨が折れてしまうんじゃないかって位強い力で掴まれて思わず顔が歪む。
…スバルってこんな力で毎回腰抱かれてたのか?よく折れなかったな。


花子はじっと俺の痛みで歪んだ顔を見つめていたが再びニッコリと嬉しそうに微笑む。



「ふふ…痛がるシュウさん…かわいい。もっと痛くしてもいーい?」



「…っ!」



その言葉に流石の俺も恐怖を覚えて全力で体に力を入れてなんとか花子の下から抜け出した。


うん、もう二度と花子には酒を飲ませない。



そんな事を密かに心の中で誓っていればふわりと背中を包み込む暖かくて柔らかい感触。
この場には俺と花子しかいないのだからこの温もりの正体は紛れもない彼女のモノだ。



「花子…?」



「ん、しゅう、さ…こっち見ちゃダメ…」



普段より少しゆったりとしたペースでそう言ってぎゅっと俺に縋り付いてくる彼女に
心臓ないくせに心臓が爆発しそうな俺は何とか小さく息を吐いて自身を落ち着かせる。



「花子、どうした?気分でも悪い?」



「シュウさん…すき…だいすき…すきすぎてごめんなさい…がんばる、から…すてないで…?」




背中にスリスリと頬を寄せてのそんな懇願に、俺は彼女の言葉なんか無視して振り返り
そのまま熱い花子の体を力いっぱい抱き締めた。



「何不安になってんの?…捨てる訳ないだろ、馬鹿。」



「だって…しゅうさ…いつも溜息ばかり…ふぇ」



…や、だってそれは仕方ないだろ。
いつもお前が近付いたら叫んで泣くんだ。溜息位付きたくなるだろ。
けれど花子としてはそれがずっと不安だったらしい。
ったく、少しは俺の気持ちも考えてくれよ。



「花子、すき…だいすきだから。そんな心配はしなくていい。」



「ほんと?へへ…しゅーさー…ちゅっ…へへっ」




よっぽど俺の言葉が嬉しかったのか、花子はへにゃりと笑って
ゆるゆると腕の中で動き始めたかと思うと、先程の騒動に少しはだけてしまっている俺の胸に小さく音を立ててキスをした。


………俺もな、健全な男子ってやつだから、そう言う事されるともう抑えって効かないんだけど。



「花子………って、おい。」



「………ぐぅ」




花子とそう言う事、始めようと思って彼女の唇に自分のそれを近付ければ可愛い寝息にビシリと俺の身体は固まってしまう。



…おい、こんな所で彼氏を放置とかお前は新手のドSかよ。



けれど俺の腕の中で本気で幸せそうに眠る花子を無理矢理起こしてしまう気にはなれなくて
彼女には聞こえないように小さなため息を吐いて俺はこの生殺しコースを甘んじて受け入れることにした。



前言撤回。
週一位のペースで花子に酒飲ませよう。




そしたらこうした彼女の素直な不安とか色々、聞けるみたいだ。



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