7:Sleeping Beauty SAKAMAKI


「おじゃましまーす…って、天使が眠っていらっしゃる…!」



「………ぐぅ。」



花子が遠慮がちに俺の部屋に入ってくれば相変わらず過ぎる台詞に心の中で溜息をつきつつ彼女の前でこのまま寝たふりを敢行している。


きっと俺の事が大好きすぎる
花子の事だ、意識のある俺には近付けないだろうが
こうして無防備を装っていればきっと近付いて触れてくるに違いない。
そこを襲って抱き締めてやろうと言う魂胆である。



…なんで俺こんなに必死になってんだろ。




けれど花子はそんな俺の考えをいつも通り斜め上にいってしまう。
数秒何も音が聞こえなかったが何かごそごそすると思えば
突然部屋に響き渡るピローンと言う間抜けな無機質音。
…おい、勝手に携帯で写メ撮るんじゃない。



「ううううう可愛い…綺麗…すりーぴんぐ・びゅーてぃ・さかまきぃぃぃ」



ピローン、ピローン、ピローン
ピローン、ピローン、ピローン



………おい、撮り過ぎ。撮り過ぎだから。
そんなに素早く連写されまくったら流石の俺も恥ずかしいんだけど?
けれどその無機質な音は収まる事を知らない。
今度は少し瞼越しにも明るいと感じてしまって何事かと思い
チラリと彼女に気付かれないように薄ら目を開ければそこにあった物体にすこしばかり引いてしまう。



(おいおい嘘だろ…)



何と花子はいつのまにか呼び出したスバルにアシスタントの真似事をさせて
スタジオとかに置いてあるようなでかい照明を俺に向けて当てていて
先程まで手に持っていたであろう携帯を部屋の隅に放り出しており、代わりになんかでかい重厚なカメラをこちらに構えていた。



…勘弁してください。
自分の寝顔を彼女に本格的に撮影されるとかなんのプレイだよ。



完全に起きるタイミングを逃してしまった俺はそのまま花子にされるがまま
好き放題写真を撮られまくってしまった。
たまーに動画も撮られた気がしたから起きたら全力で削除しに行こうと思う。



「うう…それにしてもシュウさん可愛いなぁ…寝顔マジ天使なんだけど。」



「そうかぁ?只爆睡してるだけじゃねーか。」



「ああ、スバル君は目が腐ってるからシュウさんの魅力に気付けないんだね。人生10割損してるんだね可哀想。」



………違う。スバルが正論。
一通り俺の撮影を堪能した花子と付き合わされてしまったスバルはすごい至近距離で俺の顔をまじまじと見つめる。



スバル、邪魔。マジで、邪魔。



お前がいなかったらこのまま花子に抱き付けたのになんでお前まで逆巻シュウ寝顔鑑賞会に参加してんだよ。



末っ子を本気で邪魔だと思っていればふわりと暖かいモノが俺の頭に触れる。
一瞬なんだと思ったがそれはすぐに誰のものか認識することが出来た。
………なんだろ、花子の手…すごく安心する。



「ふふ…シュウさん、おやすみなさい。」



「…………ん、」



驚く位穏やかなその声に俺はフリじゃなくて
本気でそのまま意識を微睡の中へ落としてしまった。
なんだよ…なんで花子はこんな魔法みたいなことが出来るんだ。
どうしてこんなにお前の存在は安心できるんだろう…



ゆるゆると彼女の手と声色に導かれて完全に意識を落としてしまえば
花子とスバルの会話なんて全然聞こえなくて…
実はやっぱり花子の方が大人で、俺の方が子供だったと思い知ることはこの時点ではなかったのだ。




(「…なぁ花子、なんでさっきシュウにおやすみって言ったんだ?シュウ、もう寝てんのに」)



(「……シュウさんはね、寝たふりしてたんだよ?ふふ、可愛いよね。」)



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